第7話 うぐぐぐ。
物語ではどういうことをさせるものだろうか。色々と思い返してみるが、元の仲間をその手で殺させたり、かつて仕えていた主君の姫を犯させたりだとか、ろくなことをさせてない。
ろくでもないことをさせて忠誠をはかるのが目的なのだから、そうなるのは仕方がないのだが。
(だけど、現実にもそういうことさせるのかしら? そういうことをさせていたら、最初さほど反抗心がなくとも、恨みに思うんじゃないの? 内部に不穏分子を抱えたままになったりしない?)
リエラは色々と考える。
物語のその手のシーンを幾つも頭の中で思い返し、「だけど現実では……」と批判をしている。
ぶっちゃけ、現実逃避であった。
「……ごしゅじん、さま?」
枕からアネットが顔を上げ、彼女を見る。
様子がおかしいので、こちらを伺っているようだ。
……様子がおかしいという意味では、アネットの方がよっぽどであるが、彼女自身には自分がおかしいという自覚はない、らしい。
「なんでも、ないわよ……」
アネットのものといたげな面持ちに潤んだ眼差しで見上げられ、リエラは気まずそうに顔を反らす。
頭の中で色々と妄想していたせいか、謎の罪悪感があった。
勿論、先刻までペットとして飼って、誇りも何もかもを蹂躙しつくすつもりであったのは忘れていない。
しかしこの路線が喜ばれている――ような態度を示されている以上、そうではない、直接的に肉体を痛めつける方向でもよいかと、改めて考え直した。
頭の中で、鞭を打たれて泣き叫ぶ妹の姿は、あまり気持ちよくなかった。
(冷静になりなさい、リエラ。あなたの望みは何なのか、何を望んで自分はこうして魔王として君臨しているのか、それを思い出しなさい。自分はなんのために、王国をのっとって、妹をこうして囚えたのか――)
そうしてしばし考えてから、腰の左右に手を当てて、彼女は胸を張った。
「やっぱり、奴隷もなし」
「えー……」
「あと、この匙については、わたしのミスということにするわ。そう。ミスよ。わたしだって間違えることもある……これは間違い……なんとなく入れちゃっただけ……」
そう自分に言い聞かせるリエラを、アネットは静かに見つめている。
「とにかく! あなたはペットで、餌は自分で食べること! 匙を使わず、直接皿に口をつけて、それで食べること! いいわね!」
「あ、はい」
「うぐぐぐ…………」
特に何の異論もなく受け入れた妹に、リエラは眉をひくつかせる。まだだ。まだこれくらいは予想の範囲内だ。さっきまでの流れなら、この展開は予測できたことだ。
だから、躊躇いもなく四つん這いになり、皿に顔をつけて麦粥をもくもくと食べ始めた妹を見ても、あまり嬉しくなかった。
(……大丈夫、大丈夫、まだ、これから……こんなの序の口……どんなに覚悟を決めてても、最後にはイヤイヤってなるくらいにひどい目に……)
しかしペットとして扱う以上にひどい目に合わせるというのがどんなものなのか、リエラにはにわかには想像ができないのだった。
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