第6話 ごくり。
ぞわり、とリエラの背筋をおぞけが駆け抜ける。
なんだろう。
なんなんだろう。
自分は魔王の力に覚醒して、王国精鋭の魔導騎士団だろうと、王国最強の『剣帝』だろうと――それこそ、こうして光の御子たるアネットも難なく降し、檻に閉じ込めているというのに――
(おかしい)
捕食者は、自分のはずだ。自分のはずなのだ。
力は自分の方が上。
それは間違いない。
アネットの力を封じたのは純粋なる力で、術ではなかった。ただ目覚めた力をぶつけただけだった。
もしもリエラの力をアネットが上回っていたのなら、力を撥ね退けて反撃してきてたはずだ。
だから。
自分の方が、強い。
自分の方が、圧倒的に優勢だと。
そう信じていたのだが。
(まさか――)
突然、恐ろしい考えがリエラの脳内にふって湧いた。
それは信じ難いというか、到底信じたくないようなものであったが、この、今の状況を説明するのにあまりにも矛盾なく整合していて、他に答えがないかのように思わせるものであった。
(まさかアネットは、わたしのことを大好き――なの……?)
それで、わざと囚えられて、喜んでペットとして飼われようとしている、だなんて。
ありえない。
ありえない、のだが。
そんなはずはないのだが。
そう考えると、辻褄が合う。
合いすぎてしまう。
(いえいえ、まだ、そんなの決まってない……というか、いくらなんでもそれはない。まだしも、わたしを油断させ、隙を突いて力を奪い返そうとしていると、そっちの方がありそう……ううん、きっとそう)
そのために、喜んでペットとして振る舞い、性奴隷になれるみたいに盛ってる風に装ってるのだろう。
多分。
……リエラは、冷静に考えているつもりであった。
(そう。どんなに身も心も汚されようとも、最後に勝てばいい、人々のために自分を使い潰してもいいというのは一つの武人としてのあり方だもの)
忠義のために何もかもを投げ出し、敵のもとで忍従を何十年と続けた騎士物語もあった、とかリエラは思い出す。そのような覚悟を持って闇の汚濁に身を染めようとしてるのだろう、多分。きっと。
(そう……あなたがそのつもりなら……)
その覚悟が何処まで本当なのか、今から試して――
リエラは、ごくりと鍔を飲み込んだ。
(試す? わたしが、何をするの? この子に? わたしが……ナニするっていうの!?)
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