第5話 えへへ。
「あとは、自分でたべなさい」
リエラは匙を皿に挿し、床に置いた。
「わたしはペット……」
「ペットはなし」
「えー……」
露骨に嫌な顔をするアネットを見て、リエラは顎に手をやって自分に向けさせる。
「……ペットではなくて、奴隷にしましょう」
それなら自分の手で食事するだろう、ということでの妥協案だった。
なんでこんな妥協をしなくてはならないのだ、という葛藤はあったが、このまま手づから餌をやり続けるだなんてとてもできないし、餓死されるのもすごく嫌だ。
どういう心算がこの妹にあるのかはまったくの謎であるが、とにかく食事を自分でしてもらえればいい、くらいのつもりでだした言葉であった。
「奴隷…………奴隷――――」
アネットはその言葉を噛み締めるように何度も呟いていたのだが。
「そんな……!」
と突然、顔を真っ赤にさせた。
「ご主人さまの性奴隷になれだなんて……!」
「どうしてそういう飛躍するの!?」
リエラの叫びに、アネットは両手で口を塞ぎながら。
「でもこの状況では労働奴隷とかできないですし」
そんなに飛躍していなかった。
「そうなると、こうして檻の中でやれることなんて、愛玩動物として愛でられるだけで……」
「それは確かに……」
「だけどペットではないというし」
「そう、そう。ペットではなくて――」
「ペットではないけど愛玩する奴隷って、つまり」
「いや、違う……違う、違う……」
意外に論理的(?)な話のもっていきかたをされて、根本的に生真面目な性格であるリエラは言葉に詰まる。
「そっかー……わたし、ご主人様に性奴隷にされるのかあ……」
どういうわけか、アネットは顔を赤くしてから、檻の中に用意されたふかふかのクッションを腕に抱えて顔をうずめ、「えへへ」などと言う。
リエラは生まれて此の方、「えへへ」だなんて口にした人間を初めて見て、そしてその時、ぞぞぞっと背筋を駆け抜けた寒気に、両手で自分の体を抱きしめる。
(な、何、何なの、今の…………)
ヤバい、というのは解った。
どういうふうにヤバいというのは解らなかった。何がなんだか解らないが、とにかくヤバい。
「うふふふふ……」
リエラがどん引きしているのを知らず、アネットは枕を抱えたままで床に寝そべると、にやけた顔を押し付けてぐりぐりと顔を動かし、体をゆすって何やらくぐもった声をあげたり、足をバタバタと動かしたりしだした。
(何してんの……)
アネットの奇態にどう反応していいのか解らない。
リエラはみんなに隠れてこっそりと動物の世話を焼いたり飼ったりしていたが、こんな行動をしている生き物というのはほとんど初めて見た。
彼女の記憶にある限りでは、盛りのついた犬に似てなくもないが――
(盛り!?)
自ら思いついた言葉に、リエラは自分でもわけが解らず愕然とし、その後で連鎖して。
「食われる」
と思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます