蒼きフランベル

 指示を出す者、自らのゾンビ化により、魔法だとか剣技だとか、【三顧の撃】は、使えない。

 しかし、単純な身体能力だけで圧倒的なのだ。

【三顧の撃】無しなら、小さな傷を積み重ねて倒すことが出来るかもしれないモータルだが、だ。

 致命傷レベルの一撃でなければ、その動きを止められないだろう。

 その一撃を放てる二人が揃って、瀕死の満身創痍。


「キツすぎて、笑えてくるな」


 まだ意識の有る自分が、何とかしなくては全滅になってしまう。


「オぉオオぇァぐぉ!!!」


 言葉にならない雄叫びを上げて迫りくるモータルの攻撃を、回避するので精一杯の状況が続く。

 回避に動き回ることで、身体の毒の巡りは速まっているのだろう。

 少しずつ死へ近づいていくのが分かる。


(長くはない。【狼の魂】を使うのが限界の状態で、モータルの白銀装備を貫く攻撃をしなくては!!)


 何かないかと周辺を見回すと、アレクが落とした宝剣・フランベル・が目に入る。

 咄嗟に拾い上げてしまったが、俺にフランベルは使ことは出来ないのだ。

 火属性で有るフランベルを氷属性の俺が、モータルの防御を貫く威力まで高められるか、分からない。


『何をグチグチ言っとる。何も考えずに、ワシで斬りかかれば良いんじゃ!』


(ーー!? 声が? まさか、フランベルの!?)


『声が聞こえるのは、使う資格が有るからじゃ。思い出せ。確かに、パールお主は氷属性。じゃが、パール恩寵を作り、オスカーの魂前の所有者に込めたのは? じゃ?』


(シルバの魂は火属性! 【狼の魂】は火の魔力で発動していたのか!?)


『お主はスキルを介して、氷の魔法を使っておったにすぎん。、火の精進をせい!』


 考えておく!! と、返事を返しながら、フランベルを身体の一部と仮定し、【狼の魂】で強化する。


『ほーー!!? 風変わりな魔力のせいで、珍しい輝きじゃ! 蒼い炎なぞ、久方ぶりじゃな!!!』


 身体強化の延長にある【狼の魂】は、剣や装備は強化出来ない。

 強化するには、別に魔力を込めなくては駄目なのだが、モータルへの対応に使わざるをえない上に、これ一つで限界だ。

 申し訳無いが、発動しなかった分の手から先の余剰魔力を、フランベル側に使ってもらう形で強化している。

 火から氷に変換される途中の魔力、フランベル側からの吸収利用などの異例の運用に、本来なら紅く輝くフランベルが蒼く、蒼い炎を滾らせ、蒼く輝く。


『蒼い炎は、高位の使用者が出せる炎なのだ。本来の威力に及ばんが、久しぶりに蒼を出せて気分が良いの!!』


「うおおおおおお!!!!」


 穴が開いた水袋のように、纏う【狼の魂】から魔力が漏れ出す。

 手から先のフランベルに魔力を渡すために、仕方ないことだが枯渇寸前だ。

 モータルとの決着を急がねばならない!


「オぉオオぇァぐぉ!!!」


 眷属ゾンビ化により、動きが単調になったモータルに攻撃を入れるのは容易い。

 今まで、有効打の威力の攻撃が出来なかっただけなのだから!!


「オぉオ…………


 首を刎ねられたモータルが切断面から燃え、その身を灰に変えながら、動きを止める。


「終わった。やっと終わった……」


 動き回ったことで全身を駆け巡る生前の毒に、自分も限界だったようだ。

 フランベルを握りしめたまま、膝から崩れ落ちる。


『オスカーが怪しげな商人から買った毒は、強力だったと見えるな。お主の生前どころか、モータルと毒耐性が付いたシルバでさえ殺しきるとはな』


(賭けだったが、多少の毒耐性は付いていたか)


『モータルが悪足掻きをせずに、お主が安静にしておれば助かったぞ? 、その毒にも負けん耐性が付いておるだろうから、安心せい』


(俺になんか無い。有るはずが無い。有ったとしても、それに人格・記憶は居ない)


『アレクが、お主の転生を打ち明けられた時に、ワシを手入れをしつつ




 ーーーーーー


「フランベル。シルバは死を覚悟しているね。生前のことを、そこまで悔いに感じることは無いのに。私の治世今のことを、そこまで恩義に感じることは無いのに」


『律儀じゃな。とは思う。両者とも、すべきことをした結果のことじゃし。人の中でも、あれだけ立派にしとる者も珍しいの。人に転生し、生前の魔狼としての気高さが、そのまま反映されておるのだろう。ワシはシルバが気に入っておる』


「私も、そう思う。シルバは幼い時から罪悪感と使命感だけを糧に生きてきた。この戦いを無事に乗り越えられたら、シルバは報われるべきだ。仮に無事で無かったとしても、


 ーーーーーー



『【言霊】スキル持ちの本気の言葉じゃ。気休めにでもして、安らかに逝くが良い』


 周囲からの同僚達の安否を気遣う声を聞きながら、少しだけ安らかな気持ちで瞳を閉じた……







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