”不滅”の由縁

「やっちまえー! シルバ!」


「アレクセイ様! ご武運を!!」


 兵士達の激励を背に、アレクと共にモータルへ挑む。



破裂する粉雪ペイン・スノウ


「何!!?」


 無駄撃ち出来ない状況で、【三顧の撃】の回数を減らせない魔法を撃たれて、モータルが驚きを浮かべる。

 確かに破裂する粉雪ペイン・スノウでは回数を減らせないばかりか、範囲内に入った時点で掻き消えるので攻撃として意味は無いが


射貫く炎の槍ショット・ランス


 渾身の魔力を込めた破裂する粉雪ペイン・スノウにより降雪が増量し、視界不良になったモータルにアレクの魔法が容易に刺さり、球体の一つが光を失う。


「おのれ!! 小癪な!!!」


 視界不良と直撃に怒りを浮かべ、長剣と尾を振り回し、辺りを警戒するモータル。

 スキルの再装填まで時間を稼ぎたいのだろうが、同じ手が通じる保証は無いので畳みかける。


 散々、見た縫いつける氷の楔ウェッジ・ソウを警戒し絶えず動き回り、的を絞らせないようにし、アレクの宝剣・フランベル・での斬撃を警戒する。


縫いつける氷の楔ウェッジ・ソウ


 まさか遠距離で撃てる魔法を、至近距離で使われるとは思っていなかったのだろうモータルは、接近戦に来るのはの身体能力のアレクだと考えていたはずだ。

 だから、人間アレクだと思ったはずだ。

 実際は、モータルよりも俺だと思っていなかったので、モータルの胸倉を掴むように、した速度で接近した俺への対処が遅れた。

 結果、至近距離での回避不可の縫いつける氷の楔ウェッジ・ソウを喰らい、最後の球体は光を失う。


「今です!! アレク!!!」


「おおおおお!!!!!」


 再装填の時間を与える訳にはいかないと、この好機チャンスにアレクが、裂帛の気合と共に斬りかかる!!


「舐めるなよ!! 人間どもが!!!! スキルが無くとも、易々と倒される”不滅”のモータルではないぞ!!!」


 胸倉を掴んでいる俺に目もくれず、白銀の長剣を振り上げ、斬りかかるアレクを見据える。


「ぬっ!?? ぐあぁぁあぁ!!!?」


【三顧の撃】の効果が消え、未だ降りしきる破裂する粉雪ペイン・スノウが、モータルの全身で炸裂して体勢を大きく崩す。



 決まった!! と、誰もが思った瞬間






咲き誇る土の華ニードル・ポイント


 モータルを中心に、まるで華が開くように土の杭が次々と飛び出し、アレクは吹き飛ばされる。


「アレーーーーーーク!!!??」


「スキルに使っていた魔力を使えば、これくらい造作も無いわ!!」


 終わった。 と、誰もが思ったが






 俺だけは、命懸けの賭けに出る覚悟を決めた!!!


 ーー魔装・生前を越えてオーバー・スペック・ーー


 モータルと一人で戦っていた俺には、モータルのユニーク・スキル無しの実力が良く分かっていた。

 万が一にも作戦が破られる可能性の為に、最後の五本目のマナ・ポーションを飲みながら準備していた。

 俺の魔力の全部を使って発現する

 顕現生前の能力を越えた

 そのありったけを拳に込め、モータルの顔面に叩きこむ!!!






。2手も3手も先を読む才能は素晴らしい」


 勝ち誇った笑みを浮かべたモータルが、白銀の盾と兜に防がれた俺の拳に噛みつく。


「惜しい。本当に惜しい! このまま、私に血を吸われて絶命し、毒を流し込まれたら、物を考えない眷属になってしまうなんて」


「……掛かったな」


 ニヤリと、拳から血を吸われながら笑う俺を、モータルが不審に思う。


「負け惜しみですか? 貴方は、もう終わ……ぐふぅ!!?」


吐血しながら、モータルは静かに横たわった。

生前の俺のように、いつ死んだのかも分からなかっただろう。



なんだ。生前を越えてオーバー・スペックでは、白銀装備を越えて致命傷は与えられないと」


 既に物言わぬモータルに、やり遂げた満足感を静めるように淡々と告げる。


「毒で死んだ俺以降を再現し、を摂取させられれば、倒せるのはで確認済みなんだ」


 即座に解除したが、生前と合わせて二度目の毒に耐性が付いているか、スキル越しだから耐えられるかは、大きな賭けだ。

 今はまだ生きているが、眩暈や吐き気、身体中の倦怠感、悪寒、激痛に苛まれているが、そんな事より、アレクの安否が優先だ。



 モータルが死に、主を失ったゾンビが死に、戦いが終わった兵士達がアレクを取り囲み、介抱している。


「やあ、シルバ。君の奥さんのおかげで、助かったよ。今度、お礼を言いに行かないとね」


 傷は塞がったが、失った血液のせいで顔色は悪いが、生きていた。

 生きていてくれた。


「帰りましょう。奥様と、お嬢様の所に。私も、レオナの所に帰りたい。彼女の安心した顔が見たい」


 流れ出る涙を止められず、止めようともせず、お互いに笑い合っていた。



「さあ、負傷者を介抱して、帰り支度だ。死んだゾンビ達も1ヶ所に集めて、焼却しなくては疫病が発生するかもしれん」


 アレクが戦後処理のために、不調の身体で陣頭指揮を取る。

 戦いの緊張から解放され、弛緩した空気が流れていた。







 が、絶望を叩きつけるまでは。


「な……馬鹿な……!?」


 


「我が、ナは、不メつ、NO、モーぉぉオ、たぁァル!!!」


 モータルが"不滅"の二つ名の由縁を、遺憾なく発揮していた。


「こいつ!? 自分を眷属ゾンビに!!?」


「オぉうオぇぉぉあ!!!」


 雄叫びを上げ、串刺しにしたアレクごと剣を振り回す。


「早く!! 誰かポーションをアレクに!!! モータルは、俺がなんとかする!!!」


 幸いにも、刺された以上に傷口を拡げられる前に剣が抜け、少し離れた所に落ちるアレク。

 落ちた衝撃で吐血したようだから、まだ生きているはずだ。


 だが、モータルをなんとかしなくては



 なんとかしなくては、なんとかしなくては、全員が死ぬ!!






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