”不滅”のモータル

「我が名は、魔王軍四天王が1人! ”泥土”のマンダラ様が配下! ヴァンパイア・ナーガの”不滅”のモータル!! 我が主と魔王様の命により来た!」


 名乗られたのなら、名乗るのが礼儀だ。


「俺の名は、シルバ! アレクセイ・ヴォルフの兵士だ! 領民の安寧の為に来た!!」


「アレクセイという男は、ケチ臭いのだな! 私を倒すために、兵を1人しか派遣しないとは!」


倒すのなんか、俺だけで充分過ぎるからな!」


「ほう。まだ若いのに、勤勉だな。私の種族について、知っていると見える」



 ーーヴァンパイア・ナーガーー


 吸血鬼と毒蛇のハーフのような魔物で、お互いの種族の欠点を克服する代わりに、お互いの種族の長所を劣化させた魔物。

 日の光と寒さに耐性が付く代わりに、知性の有る眷属を産み出せず致死性の毒を持たない。

 産み出した眷属は指示以上のことをしないので、目の届く範囲、数までしか使役出来ず、主が死ねば死んでしまう。


 ーーーーーー



 会話によって情報を手に入れ、稼いだ時間で魔力薬湯マナ・ポーションを飲んで、魔力の回復を図る。

 マナ・ポーションは希少だが素材さえあれば、時間を掛ければ覚えたての錬金術でも生産は出来る。

 雪深い村の周辺での素材集めと初級錬金術の製造工程を考えると、十歳の頃に村を離れて二年間で、良くて二本が限界と考えていたが、レオナは何とも作っていた。

 鬼気迫る様子で素材集めと調合を行っていたレオナは、村の皆から本物の魔女のようだと、されていたと、兄のレオの談だ。

 物心ついた頃から、その様子を見ていたロンだけが普通のこととして捉えていたらしい。


「眷属達は、知識や経験したことが無い指示を出したら何も出来ないからな。博識なら眷属にした時に指示は、最小限で済みそうで助かるぞ!!」


 モータルが長い尾を鞭のように振るって、薙ぎ払ってきた所を後ろに飛びのく。

 着地と同時に、更に後ろに飛びのく。


「!!? ほう!!」


 モータルの感嘆の声と同時か、それよりも早いタイミングで土や石で出来た杭が、着地した周辺で地面から無数に串刺しにしようと隆起した。


「ますます気に入った!! その若さで戦い慣れているな。無詠唱の追撃を予測し、回避出来るとは」


 賞賛の声を聞きながら、注意を切らさずにモータルの周辺を廻るを警戒する。

 四天王”泥土”の配下なら土属性系だと検討を付けて回避出来たが、あの球体が何の属性魔法かスキルか判別しなければ、危険だと本能が告げていた。


「……見えているか。なら、油断は出来んな!!」


 俺の何倍もの巨体で、信じられないくらいの速度で突進してくる。

 勢いそのままに長剣を振り下ろし、俺が居た場所に馬車が激突したような衝撃が走った。


「確かに速いが、俺の方がはやい!!」


 突撃を回避し、モータルの無防備の背後から、謎の球体不確定要素に接近戦は危険と判断し、魔法で攻撃する。


縫いつける氷の楔ウェッジ・ソウ


 渾身の魔力を込め、頭上に大槍のような氷柱を生み出し、回避や防御が間に合わない速度とタイミングで、モータルを文字通り地面に縫い付けようと迫るが


は出来ん! と、言ったはずだ!!」


 球体の回転範囲に入った途端に、何も無かったように魔法が霧散し、呆気に取られ隙だらけの俺にモータルのの長剣が迫る。


「ぐっ!? はぁ!!!」


 咄嗟に、両腕の・爪・を交差させて防御するが、銀に耐性の低い魔狼の・爪・は切り裂かれ、衝撃で吹き飛ばされる。

 体勢を立て直し、着地と同時に・爪・を再生させ、縫いつける氷の楔ウェッジ・ソウ展開して、追撃を警戒する。


程、戦い慣れているな。今の攻防で、崇拝する邪神様の恩寵ユニークを考察し始めるとは」


 今の攻防で光の消えた球体ユニークの回復を待っているのだろうモータルが、俺を眷属にした時のことを考えて、薄気味の悪い笑みを浮かべる。

 立て直してから、破裂する粉雪ペイン・スノウを発動させているが発動せず、球体の光に変化が見られないのは、なのだと考察できる。


(これだけ強力なユニーク。加えて大量の眷属の使役。消費魔力を考えて、攻撃に使ってくる魔法の威力、連発力に制限が掛かっているだろうことだけが、唯一の救いか)


 考察しながら、背後から迫ってきていたゾンビ達を・爪・で、一薙ぎして一掃する。


「ははははは!!! この状況で、微塵も油断しないとは!! 素晴らしい!! 眷属にした時が楽しみだ!!!」


 その瞬間に突撃してくるが速さだけなら上なので、相性の悪い白銀の長剣だけは正面から受けずに防御に徹する。


(このままだとジリ貧だ。ユニークのことを考えたら、それなりの威力と手数が必要だ。援軍が来るまで、作戦通りに時間を稼ぐしかない!)



 生きて帰らなければいけないが、場合によっては、命懸けの攻撃を仕掛けることを覚悟し始めていた。








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