前半戦

 夜の闇が明けきらない早朝の森の中、砦と呼ぶには華美な、むしろ、城と呼ぶ方が相応しい砦が、森の中に在った。


(砦の建設という報告だったが、この無駄に華美な装飾。指揮官はナルシスト的な自信家か?)


 報告から到着までの期間を考えると、砦は完成されていると考えていたが、城レベルを建設しているので、砦としての機能は未完成だった。

 指揮官、上官クラスの住居を先に作ってから、堀や柵、城壁を作り始めるといった手際の悪さも目立っている。


(挟み撃ちの作戦上、敵に籠城戦の択が無いのは、良いことだがな)


 魔王軍の兵士達を観察すると、種族はバラバラだが一貫性が見られる。


(警戒と建設に当たっている下っ端は全員、アンデットかゾンビ。もしくは、それに類する兆候が見られる。指示の出せる知性の個体、苦戦しそうなレベルの相手は少なそうだ。これなら……)


 単独でも、イケるかもしれない! と、敵軍へと特攻を仕掛ける。




 ーーーーーー



「シルバの奴、1人で大丈夫ですかね?」


「お前だったら無理だろうが、シルバだったら1人で倒してる、まで有るぞ」


 違いねえ と、ロイとシルバの上官だったブルータスの軽口に、兵士達は笑い出す。


「ユニーク持ちな上に、人族には珍しい氷魔法の適正持ち。まだ成人前ガキのくせに礼儀や態度が良いときた。オレには、どうして他人の下で働いてるのか分からねえくらいだぜ」


「レオナちゃん? だっけか? 故郷に許嫁が居なかったら、俺の娘でも嫁がせたんだがな」


 しっかりと装備や物資、馬などの状態を確認しつつ、兵士達は過度に緊張し過ぎないように雑談をしている。

 二年間、シルバと寝食と戦いを共にしてきた兵士達の、シルバへの信頼は絶大だ。


「そうです! シルバは強いんです! 強い! 1人で大丈夫! 大丈夫です!」


 村の少女、レオナが胸を張りつつ、自身が錬金術で作った獣除けの香や薬湯ポーションを大量に運んで来た。


「助かるよ。村に来るまで必要最小限の物資で駆け付けられたのは、レオナ錬金術ソレを当てにしていたからだからね」


「アレクセイ様、お礼ならシルバに。錬金術は、シルバに教わりましたし、物資の備蓄もシルバの指示です。私は、シルバに言われたことしか。偉いって、シルバに。シルバに偉いって褒めてあげてください」


 あの礼拝所で、初めて詳しい事情を説明されていた少女が、一軍を賄える量の物資を揃えていたことに驚きを覚えるが


(ここまで尽くしてくれる少女の為にも、生きて帰るんだぞ。シルバ)



 ーーーーーー




破裂する粉雪ペイン・スノウ


 降り注ぐ雪に、敵に触れると針や釘状に尖り、破裂する雪状の魔法を潜ませる。


氷の微笑みラフ・クロージング


 本来なら全身を氷漬けにし、氷の彫像のようにする魔法を、足元だけ凍らせるように放つ。


 ーー魔装・懐かしき我が手足リム・--


 魔物も生物である以上、頭か心臓、血液の大量喪失で死ぬ。

 不定形の生物スライムやゴーレム、亡霊やは核となる魔石の喪失で死ぬ。


 破裂する粉雪ペイン・スノウで核が破壊されなかった者を、氷の微笑みラフ・クロージングで行動不能にし、効果範囲外の敵を蹴散らしていく。


(イケる! 奇襲で、かなりの数の敵を減らせた! 自我が無いゾンビ達だから、指揮官クラスが出てくるまで、このパターンで通じる!!)


 中級もしくは上級に属する二つの魔法とスキルを連発し、指揮官が出てくるまでに、200程の敵を約半数に減らした頃合いで、ゾンビ達の動きが変わってきた。

 建築資材を盾代わりに、破裂する粉雪ペイン・スノウの至近距離での破裂を防ぎ、周辺に焚き火を起こし氷の微笑みラフ・クロージングの効果を減退させ始めた。



「私の眷属達の反応が消え続けているから、敵軍かと思えば。まだまだ青い果実が、たった1人で乗り込んで来たとはな」


 白銀の鎧を身に纏い、下半身が大蛇の男が戦況を確認する。


「ふむ。ゾンビ眷属自我知性が無いか確かめるために降雪に魔法を混ぜ、無いと判断したら動きを止めるだけにした魔法で魔力を温存しつつ、接近戦で確実に倒しているのか」


 遂に出てきた敵の指揮官、上官だと思われる男が、こちらを値踏みするように俺を、じっくりと睨みまわす。


「惜しい! 実に惜しい! 進軍中このような時で無ければ、もう少し育ってから収穫したいが、致し方なし! 貴様は、眷属になることが決まった!!」


「決まっているのは、お前の死だけだ! ではな!!」


 敵の指揮官が尻尾を振り回し、白銀の剣と盾を打ち鳴らし、俺が・爪(クロウ)・を打ち鳴らす。



 戦いは、中盤戦に移行し始めていた。






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