戦いの前夜

「これより! 森で建設されている魔物の砦と、その主の排除に向かう!! 準備は良いか!?」


「「「おおお!!!」」」


 アレクの激に、兵士達が、雄々しく応える。


(住んでいた森に、勝手に住み処を造られた。確かに、生前の俺なら戦うだろうな)


 何故、生前の俺が魔王軍と一戦交えることになったか、納得していると


「我らには、炎の女神! サテラ様の加護が有る!! ! 案ずるな!!」


『そ~~だぞ! 居なくなったオスカーとパールの替わりも用意したしねー』


 自分の杜撰な計画の穴埋めを、強引に行った女神が厚かましく誇っていた。

 人族は火によって発展したため、炎を司る女神は多くの地域で信仰されており、この雪深い地域では根強い信仰が有る。

 つまり、俺の女神への信仰潰し復讐は、非常に困難なのだ。


でも、諦めるとは言わないんだね。プン、プンだよ? 僕は』


 アレクののスキルのおかげで、俺にしか見えていないのだろう顕現した女神が、可愛らしく怒った仕草をした。


『可愛いだなんて、照れるな~。ルン、ルンだよ? 僕は』


 怒ったり、照れたりする仕草の一つ一つがオーバーで、疲れないのかと呆れていると


「アッ きゃっ あうあう~~」


「どうしました? イザベラ様。何か、面白かったですか?」


 急に、ニコニコと笑い、はしゃぎだしたイザベラ嬢に困惑しながら、担当メイドのヒルダさんが落ち着かせようと奮闘している。

 こちらを見ながら笑っているイザベラ嬢を見て、もしかして女神サテラが見えているのでは? と、思っていると


よ。若いほど、神聖なモノに近いから見えやすいし、イザベラの恩寵ユニーク・スキルは、僕が丹精込めて作って宿したから繋がりも強いからね』


「グレタ。ベラも笑って、見送ってくれている。グレタも笑って、見送ってほしい」


 馬上からアレクが、まだ産後の体調不良が癒えないが、戦場に向かうアレクを毅然と見送りに立っている奥方に言う。


「あの森は、オスカー様が亡くなられた場所。不安で、笑ってなどいられません」


「不安に思うな、とは言わない。でも、グレタの笑顔を、また見たいと思って、生還帰りたくしてくれ」


 ズルい人 と呟き、奥方は微笑んだ。


(女神の計画運命なら、生前の俺とオスカー以上に強くなっていれば、アレクは死なないはずだ。受けた恩、やってしまった償いのためにも)


 例え、俺が死んだとしても と、気持ちを引き締めた。



 ーーーーーー

 森に近い故郷コユキ村で、一晩の休息を取ってから攻めることになった。

 二年振りの帰郷だ。



「お帰り! シルバ! お帰り! お帰りーー!!」


 到着するなり、レオナが胸に飛び込んできて離してくれない。


「将来の英雄様には将来の伴侶も、飛び切りのが居らっしゃるな!」


 ロイが、しがみ付くレオナを見て、軽口を言ってくる。

 周りの同僚達も、式には呼べよ? だの 馴れ初めは? だのと騒ぎ立てる。


「シルバ。話には聞いていたが、随分と可愛い娘さんじゃないか。将来は美人さんになるぞ。ベラには及ばないだろうがな」


 アレクまでが騒ぎに乗ってきた。

 確かに五歳の時から比べて、レオナは髪を伸ばし、出るところは同年代よりも出始めて、将来は美人になるだろう下地が有る。

 だから、で離れて欲しいのだが


「シルバ! これ! これ! 見せたいものが有るの!!」


 ようやく胸から離れてくれたが、俺の腕をガッチリと掴み、村外れの小さな小屋へと引き摺っていく。

 其処は、ちょっとした礼拝所のようになっており、大小の像が並べられていた。


「シルバに習ったで作ったの! 偉い? 偉い?」


 人並よりは多い魔力を持っていたが、特別に多い訳ではないレオナに自衛の手段として選んだのが、錬金術だった。

 レオナの魔力は質が良く、本人も魔力操作の才能が有ったので、繊細な技術が必要な錬金術は適していた。

 村に必要な各種の薬や道具なんかを作れるように、街に狩った獣や魔物の素材、魔石を売りに行った際に教本を買ってきて、二人で習ったのだ。


様の像は良いとして、僕の像が何で並んでるんだい?」


 氷の女神アスラ、炎の女神サテラの撲滅のために、俺が選んだ女神。

 生前の俺は、氷の魔法の適正が有ったので選ぶならアスラ一択だし、生前はアスラの名前に縁が有ったからである。


『ちょっとーー!? 何で、僕の御神体の隣にアスラなんて置いてるのー!? 明らかに造形が、僕のより良いし!! 贔屓だー! 忖度だーー!!』


「だって! だって!! 私にとって、シルバは英雄なの! 勇者なのーー!!」


 一体だけの痴女サテラの像が不格好なのは製作者が違うからで、同じ製作者レオナが作ったシルバの像も完成度はサテラのより、遥かに上なのは言うまでもない。

 女性が集まれば姦しい なんて格言を思い浮かべながら、レオナを見て考える。


(この戦いが終わった後、どうなるか分からない。俺のことを好いてくれているレオナにも、今後のためにも真実を伝えなくては)


 こうして、戦いの前の夜が過ぎていく……。






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