転生の理由

 結論から言うと、滅茶苦茶に怒られた。


 レオナと二人で、心配させたことを怒られた。


 レオは配慮の足りない言動を怒られた。


 ユニーク・スキルを隠していたことを怒られた。




 そして、誉められた。


 レオナは、俺のために行動した優しさと勇気を。


 レオは、妹に配慮の足りない言動をしたことを反省し、俺とレオナに真摯に謝罪をした漢気を。


 俺は、レオナを助けるまでの的確な判断と実力を。




「さあ!! 久しぶりの肉だ。暖かい内に、頂こうか」


 俺の父の号令で、食事が開始される。


 俺の家族とレオナの家族が、我が家で食卓を囲んでいる。

 食卓には、誰かの結婚か、春の訪れを祝う祭りを思わせる程の肉料理が、所狭しと並んでいた。

 基本的に獲った獲物は、獲った本人>狩人>村人といったふうに、労力や貢献度も加味して、村全体で平等に分け合うのが基本だ。

 だから、猪一頭だけでは、この肉料理の量を説明出来ない。




「1人で行って、1人で獲った獲物だ」


「生まれて初めての獲物だ。よく味わいな」


「将来は勇者か英雄様だ。恩を売って、損はねぇのぅ」




 村人のほとんどが、そんな事を口々に言っては受け取らなかったので、この有り様だ。


「おいしいね! シルバ!」


 大好きな猪の肉料理を食べて、機嫌を良くしたレオナが、春の華のように笑っている。


「妹を、ありがとな。お前、勇気あるぜ」


 年下相手に、素直に認めるのが恥ずかしいのか、照れくさそうにレオが言う。


「皆ー、仲良くが1番よー。さーあー、いっぱい食べてー」


 俺の母さんとレオナの母さんが、共に作った自慢の御馳走を薦めてくる。

 大人達は、祝いの時に出す上等な酒まで出して、上機嫌だ。


 オスカーが、俺と命懸けで戦った理由を理解出来たと思う。


(暖かい。人の営み。かけがえのない家族。なんと素晴らしい)


 今日は、良い気持ちで眠れそうだ……




 ーーーーーー

 星空のような空間に、生前の魔狼の姿で浮かんでいた。夢か? 夢だな。と思っていると



『やっと、繋がった!』


 ほとんど透けている服を着て、床に届く程の長い赤い髪で、かろうじて局部を隠した痴女が居た。


『痴女とは、何だ!? 不敬だぞ!! 誰が生まれ変わらせたと思っているんだ!!』


 心を読む痴女女神か!!?


『察しが良くて、助かるけど!! 何か可笑しくない!?』


 女神が、俺を転生させただと!?


『君に、やってもらいたいこと。いや、のことを、してもらうために転生させたんだ。感謝してよね』


 、だと?


『君とオスカーは、死ぬはずじゃなかったんだ。オスカーの【偽装】のせいで、運命が狂ってしまった。』


 運命だと!? そんなものが本当に存在するのか!?


『正確には陰と陽、正負、善悪、みたいな世界のバランスの流れのことさ』


 …………


『簡潔に言うと、【偽装】で死んだフリでもして逃げ延びる。その後しばらくして、君の居た森を通って、魔王の侵略の尖兵が来る。礼儀知らずの兵と、君が争う』


 魔王の兵を迎撃に、オスカーが来て、俺とオスカーで挟み撃ちで撃退する筋書きか。


『正確には、オスカーと次期6代目が、だけどね。君達は、其所で死ぬはずだったのに! 【偽装】なんてスキル持ちで、あんな高潔な人間になるなんて、信じられないね!?』


 笑える話だな。神々からの恩寵ユニーク・スキルで、神を騙すとは。


『まったく笑えない! おかげで、君を転生させるのに、力を使いすぎて、連絡も出来なかったんだから!』


 つまり、6代目の所に馳せ参じ、来るべき侵略を食い止めろと?


『断っても良いよ? この事や転生について、好きに喋っても良い。何故、させたか、分からないならね』


 性格が悪すぎるぞ! 人に転生させ、人に恩情や絆を感じさせ、無視できないようにするとは!!


『僕の予定の甘さの尻拭いをしてもらうために、ユニークなんかの特典を付けたんだ。10の頃には、生前より強くなれるよ。侵略までに、オスカーの分も強くなってもらうからね』


 ……侵略は、いつ頃だ?


『君が12になって、最初の冬のはずだ』


 成人15前で、6代目の兵になれと?


『生前より強いだけで、そこらの英雄より遥かに強いから大丈夫さ』




 ーーーーーー



 神の世界と俺の夢を繋いだ空間で、女神と俺の問答が続いた。


 詳しく話をした際に、この女神の依頼命令を断ることは、で、不可能だと知った。

 後、七年までに生前を越え、人間の中でも強者だったオスカーの分以上に強くならなくては。


 これは女神の尻拭いでもあるが、俺なりのオスカーへの償いでもある。






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