初めての狩猟
「ブルァブルルル!!プギュゥウ!!!」
「ひッ!?」
お父さんが、たまに狩ってきて、食べたことがある。
美味しくて、お兄ちゃんと取り合いのケンカになったなー。
そんなことを思い出しながら、目の前の猪を警戒する。
(経験だ! 反復だ! 練習だ! 覚えるんだ! 経験だ! 反復だ! 練習だ! 覚えるんだ!)
震える身体を、シルバの言葉を思い浮かべながら、自分を鼓舞する。
(経験だ! 反復だ! 練習だ! 覚えるんだ! 経験だ! 反
「ブルァアアアアア!!!」
何度目になるか分からない突進をしてくるが、警戒していれば横に避けるだけで、回避出来る事は知っているので問題なかった。
採取の仕事を任された時に、一通りの手解きは受けているのだ。
(経験だ! 反復だ! 練習だ! 覚えるんだ! 経験だ! 反復だ! 練習だ! 覚えるんだ!)
だが、受けていた手解きは、
(経験だ! 反復だ! 練習だ! 覚えるん……えっ!!?)
単純な突進が効かないのを理解し、ゆっくりと猪が近づいてくる。
脊を向けて逃げるなら、突進するぞ! と圧を掛けながら近づいてくる。
想定と違う行動に戸惑っている間にも近づいてくる。
(えっ!? えっ? どうするんだっけ? どうするんだっけ!?)
戸惑いながら、狩人である父の言葉を思い出す。
『猪は突進が強力だ。だが、小回りが苦手だから対処できる
この時、父の助言を無視してしまったことに、ようやく気付いた。
戸惑っている間に距離は詰められ、対峙していたせいで、間に挟む障害物も無い。
(まちがえた!? こわい! こわい! 助けて!!)
思い浮かべるのは、狩人である父の顔、五歳上の兄の顔、そして同年代の大人びた……
「助けて!! シルバーーー!!!」
叫び声を合図にするように、猪がレオナに向かって、突進を開始していた。
ーーーーーー
(居た! 間に合った!!)
木々の切れ間から、レオナを目視することが出来た。
共に匂ってくる獣の匂いから、猪と対峙しているのが分かる。
(まだ! まだ、最悪じゃない!! 怪我も無い! 良い方だ!!)
いつもの場所より森の奥、獣と魔物が入れ違う、そんな中途半端な場所。
相手が獣であること、怪我も無いことは、楽観は出来ないが良い方である。
「助けて!! シルバーーー!!!」
レオナの叫び声に反応したように突進してくる猪に対して、自身も呼応するようにレオナの前へ、躍り出る。
ーーーーーー
信じられない光景だった。
自分と同年代のシルバが、左腕で猪の頭を地面に叩きつけ、鉈を持った右で首を裂いていた。
シルバの全身は、話に聞く狼の獣人のような形をした魔力を身に纏い、キラキラと輝いていた。
(まるで、お話の中みたい)
ホワっ と、心と顔が熱くなるのを感じた。
「あっ! あのね! 一人で仕事! ありがと! ごめん!」
色んな出来事が多すぎて、一人で森に入った理由も、感謝も謝罪も上手く言えずにいた。
シルバは、こちらを見ないで、森の奥を見つめ……いや、睨んでいた。
(
自分と同じくらいの背丈で、老人のような顔、浅黒い緑色の肌。
特徴から、話に聞くゴブリンだと判った。
一匹だけのようだけど、シルバは、そのゴブリンを睨み付けている。
シルバに気付かれているから諦めたのか分からないけど、ゴブリンは森の奥へと消えていった。
「レオナ」
怒られる!? と、身構えてしまう。
「やったね、レオナ。今日は、レオナの好きな猪の肉が食べられるね」
シルバは、わざと明るい調子で、私が不安や恐怖を忘れられるように、笑いながら言ってくれた。
私は、その言葉と態度で、安心から泣き出してしまった。
ーーーーーー
「ありがどー!! ごべ! ごめんなざいー!!」
無事で良かった。 と、泣きじゃくるレオナの背中を擦りながら、心から思っていた。
途中、ゴブリンが寄ってきてしまったが、一匹であるのと実力差で撤退してくれたようだ。
仲間を引き連れて来るかもしれないので、レオナが落ち着いたら、すぐに帰らなくてはと考えていた。
(5歳が猪を狩ったのを説明するのに、ユニーク・スキルの事は言わないと駄目だろうな)
帰った後のことを考えると、気が重くなったが
(久しぶりの魚じゃない肉だ! 楽しみだ!)
そう素直に喜べるのは、思考が幼い身体に引きずられているからだと、言い訳じみた想いもあった。
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