「よお。元気に、してたか?」


「あなたっ」


「ぱぱっ」


「おうおう。ふたりとも、げんきそうだな。よかったよかった」


「ぱぱっ。ごめんなさい。ごめんなさい。ぼくが」


「おお、うれしいねえ。まだ会って時間がそんなに経ってないのに、おれをぱぱと呼んでくれるのか。そうだ。おれがぱぱだ」


「ぱぱ。ぱぱっ」


「おまえ、言われた通り、ちゃんと生きてたか?」


「うん。ちゃんと生きた。ごはんつくって、たべて、おせんたくして、こどものねるじかんにねて、あさはやくおきた。ちゃんと生きたよ。ぱぱ」


「ままは、どうだった」


「まま。ずっと、泣いてた。ぼく、どうしようもなかった。ぼく、どうすれば。どうすれば、ままをあんしんさせられるか、わからなかった。わからなかった。ぱぱ」


「そうか。そうかそうか。それは難しかったな。おいで」


「ぱぱっ」


「そう。そうやるんだ。安心させたいときは、一緒に泣いてあげればいい」


「でも、ぱぱ、泣いてないよ?」


「そうだな」


「まま。泣いてるのに」


「これな、ちょっと、まずいんだ。いまからぱぱは、ままに殴られる。たぶん、平手打ちだ。それをくらったら、たぶん、泣く」


「ぼくは」


「とりあえず、横で見とけ。いいか、ままを泣かせると、ぱぱにはこういう、おそろしいばつが待っている」


「ばかっ」


 平手打ち。


「なんでっ。なんで泳げないのに。なんでっ」


「すいませんでした。子供が溺れているのが見えて。つい」


「ぱぱ。いたそう」


「いたいよ。ままの平手打ちだから」


「ばかっ」


「いたいっ」


 平手打ち。


「まま。ぱぱがしんじゃう」


「大丈夫大丈夫。平手打ちくらい、溺れるのに比べたら優しいもんだ」


 平手打ちが何度か繰り返されて。


 抱きしめる。


「ごめんなさい。わたしは。あなたのことを。あなたを勝手に求めて。わたしは。あなたを勝手に好きになって」


「なに言ってるんだ。そういう押しが強いところが、おれは好きだよ。おいで。おまえ、まだ名前がないだろ。みんなで考えよう」

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