interlude その日

「おいっ。おいっ。聞こえるかっ」


「うぶあっ。うわあっ。うわああっ」


「暴れるなっ。じっとしていろっ」


「うわああっ。うわあああっ」


「話を聞けって。どうしてお前、海なんかにひとりで。親はっ。親は何をしてるっ」


「ぼくはっ。ぼくはいらないこどもなんだっ。うわああっ」


「ばかっ。暴れるんじゃないっ。しぬぞっ」


「しにたいっ。ぼくは、愛されてないんだっ」


「じゃあ、おまえっ。親に愛されたら、しなないんだなっ。わかったっ。よくわかったっ。おまえっ。家に来いっ」


「うぶぅっ。おえっ。ぷはっ」


「愛してやる。お前を。いいかっ。おまえを、愛してやるっ。だから頼むっ。なんとかして岸にたどり着いて、生きてくれ。頼む。岸にたどり着いたら、あの家に行けっ」


「ぷはっ。でもっ。ぼくはっ」


「おまえは今日から、俺の子供だ。あの家には、おまえを愛してくれる人間がいる。愛されて、生きるんだ。ちゃんと生きて、ちゃんと愛されろ」


「あっ。うわっ」


「俺は泳げないんだ。いい。放っておけ。おまえの命のほうが、大事だ。なんせ、おれの子供だからな」

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