一方的で傲慢な磁力

 引力はとても筋が通っている。お互いの存在を認め合った瞬間に、お互いが向かい合い引き合おうとするからだ。太陽と月と地球とが、付かず離れず居られるのは、引力の慎ましさのおかげだろう。

 人と人も引力により結ばれるべきである。お互いがお互いを求めあい、付かず離れずの関係性が良い。内側に発生したものは外へと出さず、静かに循環させるべきである。


 しかし磁力は良くない。

 磁力は一方的だ。引力とは違い暴力性を孕んでいる。

 そして離れようとすればするほど痛みが付きまとう。

 手をすり抜ければ、その瞬間引き寄せられ、すさまじい衝撃と共にくっつく。

 しかも磁力は相手を選ぶ。鉄のように静謐せいひつでおとなしいものを——言わぬものだけを引き寄せ、我がものとする。卑劣な磁力に、しかし抗うことは出来ない。避けようのない運命を強要してくる。

 鉄としてはどれほど引っ張られても動けぬほどに自分自身にくさびを打ち込む他ない。

 こうしたところで磁石の方から寄ってくるのだから、現象そのものは変わらないだろう。しかし立場は変わる。

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