こちらこそ
洗面台の前で椅子をおいて、お湯をタオルにつけては顔を濡らす。最近の僕の日課だ。
もうそろそろ自室に戻ろうとすると、洗面台の部屋から外にいくための扉が開かなくなる。
洗面台には鏡があって、鏡に写ったぼくがぼくに話しかけてきた。
そのぼくはぼくに、いままでぼくがしてきた悔恨のすべてを告げて、ねちねちとぼくを責めてくる。
でもそのぼくもぼくなので、まるで自問自答をしているような気持ちになっていた。
こわい気持ちもなく、ほとんどぼくがぼくに相談をしてるような不思議な空間が満ちていた。
相談も終わり、最後にお湯を出して顔を拭いて部屋から出る。
ぼくは鏡のぼくにありがとうというと、ぼくはこちらこそと返してくれた。
自室に入ろうとドアノブを捻ろうとするが、なにかおかしいと感じた。
ぼくの部屋の真ん前には弟の部屋があるのだが、そこから人の気配を感じない。
いや、そういえば、洗面台の部屋の近くでは、母と父が寝てる部屋も近いのだ。
なぜそこからも人の気配を感じなかったんだ。
確認してみると、どこにも弟も母も父もいない。
そこでぼくはさっき鏡のぼくがいった「こちらこそ」の意味が理解できた。
あれはきっと
「鏡のぼくと【交代】してくれて、こちらこそありがとう」
って意味だったんじゃないか?
洗面台に戻っても、鏡にはなにも写りはしなくて、あるのは沈む夜と独りぼっちのぼくだけだった。
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