第302話 注目の家族


「くそっ! また負けた! 次は負けないからな!」


「なんだ絵にかいたような捨て台詞だな」


「だがまだ一勝二敗だ! 次で挽回するからな!」


「はいはい」


 最上はそう言うと何故か嬉しそうに自軍の陣地に戻って行った。

 最上は他のクラスメイトに歓迎され「ドンマイドンマイ」と声を掛けられていた。

 俺も自軍に戻ろうと自分の陣地を見たのだが……。


「おい、早く帰ってこい前橋!」


「てめぇ良くも高城さんと……」


「殺してやる……コンクリ詰めにして東京湾に沈(ちん)してやる!」


 なんとも物騒な感じで帰りたくなかった。

 てか、俺一応勝ったんだけど?

 軍に貢献したのになんでこんな扱いなの?


「ねぇ」


「え? あ、井宮、助けてくれ。このままじゃ殺される」


「別に良いんじゃない」


「は? お前なにをイって!! なんで蹴るんだよ!」


「随分楽しそうだったわね……馬鹿」


 近くに来た井宮に助けを求めたが何故か機嫌が悪い。


「はぁ? 何怒ってだよ……」


 まさかあのお姫様抱っこか?

 いや、でもあれは競技内容でも認められてるし、それに井宮がそんな事で怒るとは思えないし……。


「怒っちゃったね」


「あぁ、何怒ってんだか」


「え? 分からないの?」


 俺が悩んでいると高城が後ろから俺に声を掛けてきた。

 先ほどまで抱えられていたのが恥ずかしいのか、高城の顔はわずかに赤くなっていた。


「あぁ、俺あいつに何かしたかな?」


「……前橋君ってたまに鈍感だよね?」


「え? そう?」


「そういうところだよ。でも……私二人三脚出て良かった……」

 

 高城は勝ったことがよほど嬉しかったのか凄く機嫌が良かった。

 なんだかんだ言ってやっぱり勝つと嬉しいし、俺もその気持ちはよくわかる。

 

「さて、次の競技まで陣地でのんびり……」


 そう俺が行った瞬間、クラスの男子達が俺を笑顔で出迎えて拘束する。


「前橋君お帰り! 鞭打ちにする? 蝋燭にする? それともぼ・く・さ・つ?」


「お前ばっかり良い思いしてタダで済むと思ってんじゃねーぞ♪」


「校庭に埋葬してやろうか?」


「お前ら体育祭の時もそんな感じ?」


 この後、メチャクチャ逃げた。



 体育祭は長すぎる。

 やっとお昼になったのだが、まだ種目が結構残っている。

 昼は各自自由に食べられるのでみんな弁当を持って校庭や教室などで昼食を取っている。

 そんな中俺はというと……。


「父さん、弁当なんて良かったのに」


「何を言ってるんだ。こう言う時くらいじゃないと親らしいことが出来ないからな」


「そうよ、家族が揃うなんて滅諦にないんだから」


「私はけいちゃんが居ればそれで良いわ」


「姉貴、頼むから離れてくれ暑い」


 家族で弁当を食べていた。

 父さんがやる気を出して俺の為に弁当を作ってきてくれたらしく、一般開放されている教室で家族四人で弁当を食べていた。


「二人三脚は凄かったな、流石は俺の息子だな」


「けいちゃん後でお姉ちゃんをお姫様抱っこしなさい。命令よ」


「嫌だよ、重いし」


「女の子のに重いなんて言わないの!」


「はいはい、ブラコンもいい加減にしなさい。まったく、借りもの競争のときは圭司まで先生をたぶらかしたのかと思ったわよ」


「俺は別に年上趣味はないよ。 ……てかさ」


「何よ」


「どうした?」


「どうしたのけいちゃん?」


「メッチャ見られてね?」


 俺達家族の居る空き教室には他にも生徒や生徒の家族が居るのだが、そのほとんどが俺達家族に注目している。

 しかも教室の外まで生徒がやってきて俺達家族を見ていくのだ。


「あれが前橋家か……お母さんメッチャ若くね?」


「てかお姉さん可愛すぎだろ!」


「前橋のお父さんカッコいい……やっぱり父親似なのね」


「全員美形の家族なんて存在するのね」


 どうやら皆、俺の家族に興味深々らしい。

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