第301話 負けず嫌いなのかもしれない
「じゃぁ持ち上げるぞ」
「う、うん。ど、どうぞ……」
俺は高城をお姫様抱っこしてスタート位置に付く。
すると観客席の方から聞きなれた悲鳴が聞こえる。
「いやぁぁぁぁぁ! けいちゃん! なんでそんな女を抱きかかえてるの! 圭ちゃんの腕の中は私だけのものなのにぃぃぃぃ!!」
観客席で叫ぶ姉貴を後目に俺は他人のフリをする。
頼むからこれ以上目立つ事をしないでくれ……。
俺の隣には何故か自信満々と言った様子で最上が並ぶ。
「前橋! 教こそ決着を付けるぞ! お前とは宿泊研修、文化祭で勝負をして現在緒一勝一敗だ!」
「あっそ、別に俺は勝負なんて興味ないだが」
「何をいう! 僕と君はライバルだ! 勝負をするのは必然だ!」
「何でだよ……」
なぜか知らないが周りの女子は「キャァー!」と何故か絶叫し、男子達は「殺せぇぇ!」「殺っちまえ!!」と物騒な掛け声が聞こえてくる。
まぁ、男子の罵声のほとんどはうちのクラスの男子達の声だけど。
とにかくこのスタイルは目立つし、人一人を抱えて走るのは絶対に大変だ。
恐らく明日は確実に筋肉痛だろう。
「お、重くない?」
「え? あぁ……う、うん」
「い、今なんか間があったよね!? や、やっぱり私重い?」
「いや、そ…そんなことは無いからな!」
正直やっぱり人一人を抱えるのは重い。
いや、これは相手が高城だからという訳ではない、人間一人を抱えるのは誰であっても普通に大変という事を言いたいだけだ。
しかし、あれだな……やっぱり周りからの視線が痛いな……。
やっぱり少し恥ずかしいと思っていると、俺のクラスの方から何やら男子のさっきとは違う殺気を感じた。
一体なんだ?
この男子たちとは違う凄いさっきは……。
俺は気になって自分のクラスの方を見た。
「………」
無言で井宮がコッチを見てた。
何故かその様子に俺は凄い恐怖を感じた。
男子達とは違う殺気はこれか……。
「後で説明しないとな……」
「え? 何か言った?」
「いや、何でもない。スタートしたら揺れるから気をつけろよ」
「う、うん……よ、よろしくお願いします」
「あ、あぁ」
正直言うと高城は思っていたよりも軽かった。
しかもなんだかいい香りがした。
てか、女の子ってこんなに身体柔らかいの?
男子と全然違うんだな……。
そんな変態チックな事を考えている間にスタートの時間がやって来た。
「位置についてぇ……よーい……」
ちらっりと横の最上を見ながら俺は左足を少し後ろに下げ力を加える。
あぁは言ったが勝負と言われて負けるのは面白くない。
それなりに全力で行こうと俺はスタートの合図を待った。
「どん!!」
合図と共に俺は高城を抱えて走り出した。
意外に走れるもので最初の方はトップに躍り出た。
「はぁはぁ……」
「はぁ……はぁ……」
しかし、そのすぐ後ろには最上が迫っていた。
一瞬たりとも気を抜けない。
他の選手達は二人三脚で足が揃わずこけていたり、一歩一歩確実にゆっくり進んでいて少し差があった。
最上もいうだけあって早かった。
しかし、俺も最上もレースの中盤には息が上がり始めて失速し始めていた。
やはり人一人を抱えて走るのは体力的に辛い。
「はぁ……はぁ……」
「ま、負けるか……」
最上が負けるかと言った瞬間、最上と俺は横に並んだ。
ゴールまであと一メートルもないくらい。
俺は最後の力を振り絞ってゴールテープに飛び込んだ。
「おらぁ! はぁ……はぁ……お、俺の……勝ちだ」
「く、くそ……ま、まさか最後で……」
結果は俺の勝ちだった。
まぁ、とはいってもかなりギリギリだったが。
「あ、あの大丈夫?」
「あぁ、全然……高城全然軽かったし」
「ほ、本当? 凄いねまさか一位取っちゃうなんて」
「まぁ、最後少しムキになってな」
俺も最上に変な影響でも受けてしまったのだろうか。
ゴール一歩手前で勝ちたいと思い頑張ってしまった。
いつもだったら二位でも十分だろうとあんなことはしないのに……。
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