第299話 誤解だっての

「ま、前橋君ダメよ……そんな先生おばさんだし、それに生徒と教師なんて……」


 顔を真っ赤にしながら先生まで本気にし始めた。

 いや、ここの会場の奴ら話を聞いてなかったのか?


「すいません、ちょっとマイク貸して下さい」


「え? あ、はい」


 俺は係の人からマイクを借りて説明を始めた


「あー誤解の無いように言っておきますけど、俺の引いた紙には『結婚を考えている女性』とありました。先生は現在独身で婚活中であり、十分結婚を考えている女性と一致します。したがって俺が結婚を考えている人ではなく、結婚を考えいる女性なので先生が該当するんです!」


 俺はそう言い切った後に係の人にマイクを渡した。

 先生はなんか涙目になっていた。

 いや、なんかすいません……。

 周りも納得していたが一部なんだか不穏な空気の奴らが居た。

 案の定井宮や姉貴、それに高城までなんだか不穏な感じで俺を見ていた。


「ふぅ」


「……」


「なんだよ」


「別に」


 競技を終え待機所に向かうとそこにはジト目で俺をじーっと見る井宮が待っていた。


「随分ストライクゾーンが広いのね」


「お前なぁ話し聞いてたろ? 別に俺は先生と結婚を考えてるわけじゃない」


「あっそ」


「何怒ってんだよ」


「別に怒ってないわよ」


 そう言ってはいたが確実に井宮の機嫌は悪かった。

 何を怒ってるんだかさっぱり分からない。

 誤解なら解いたはずなのになぜだ?

 うーむ、やっぱり女は良く分からない。

 結局借りモノ競争は彼女を借りようと奮闘している生徒を覗いて終了した。


「あの今日だけ俺の彼女に……」


「死ね」


 なんだか気の毒になってきたな……。

 しかし体育祭は進んでいく。

 

「次の競技ってなんだっけ?」


「次は二人三脚だぞ」


「あぁーあったな」


 陣地に戻ってきた俺は英司とプログラムを見ながらそんな話をしていた。


「いや、この競技もお前が出るんだぞ」


「え? あ……」


 そう言えば高城と出ることになっていたんだと思い出した。

 何度か練習をして上手くいっていたので大丈夫だとは思うのだが……。


「頑張ろうね圭司君!」


「お、おう……」


 女子と合法的に密着できるこの競技は元々は男女別だった。

 しかし、競技に出場できる回数に制限がある都合上俺と高城だけが男女の混合ペアになってしまった。

 それを面白くないと思っている男子はもちろん多く存在し、今も俺の事を物陰から狙っている。

 おいおい、今日くらいは一致団結しようぜ……。


「ふっふっふ! 親友! 遂にこの時が来たな!」


「え? なんだ最上かよ」


 俺がクラスの男子を警戒しているとどこからともかく敵の軍の最上が俺と高城の元にやってきた。


「今日こそ僕たちの戦いに終止符を打とうではないか!」


「お前の場合事あるごとに勝負仕掛けてくるから終止符うたねーだろ」


「なんだ? 怖いのかい? 僕に負けるのが」


「おい、俺の話しを聞けよ」


「はっはっはそうだろう! なんせ今回の二人三脚のために僕と僕のペアの加藤さんは練習を重ねてきたんだ!」


「へー、てかお前も女子とペアなんだな」


「もちろんだ! 君と同じ条件で勝負しなければ意味がないからな!」


 そこまで俺にこだわらなくても……。

 こいつは本当に勝負好きだなぁ。


「今日こそは君に勝つ! 競技でも軍としても!」


「はいはい、分かったから陣地戻れってクラスメイトが探してんぞ」


「む! しまった準備をしなくては!!」


 そう言って最上は自分の陣地に戻って行った。

 あいつも勝負事が好きだからな、体育祭で更に面倒な奴になってる。

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