第296話

 俺がそんなことを考えていた時だった。


「けいちゃ〜ん!!」


 嫌な声が背後から聞こえてきた。

 まぁ、正直この親二人が来た時点でなんとなくそんな予感はしたんだがな……。


「けいちゃん! お姉ちゃんも応援に来たよ!」


 俺に声をかけて来たのは後から遅れてやってきた姉貴だった。

 しかもなんか手に一眼レフカメラ持ってるんだけど……。


「あ、姉貴も来たんだ……てか今日仕事は?」


「今日はオフに決まってるでしょ? だってけいちゃんの晴れ舞台なんだから」


「俺、一言も今日が体育祭だなんて言ってないんだけど……」


「そんなの今の時代ネットを使えば簡単に調べられるわ」


 そんな手があったか。

 絶対にバレないように最新の注意を払っていたのに……。

 うちの家族が勢揃いしていしまった。

 そのせいなのか周りには人だかりが出来始めていた。


「おい! なんだあの美男美女の集団はなんだ!?」


「やべぇ! 前橋の家族やばすぎるぞ!」


「流石は前橋の家族だな、家族全員美形だよ」


「お姉さんめっちゃ美人じゃん! 彼氏とかいるのかな?」


「お父さんダンディすぎるでしょ! かなりのイケオジなんだけど!!」


 競技が始まる前だというのになんで俺の家族が来ただけでこんな盛り上がるんだよ……。


「あ、あの前橋くんの保護者の方、ここでは騒ぎになりますのでこちらに」


「え? あぁ、そうですか? どうもすいません」


「い、いえ広い場所をご用意しますので」


「ありがとうございます先生」


「はう!!」


 あ、親父の笑顔に現国担当の善岡先生(31歳独身)が倒れた。

 ナチュラルに女の人を虜にするから親父は困ったもんだ。


「大丈夫ですか? 先生」


「え、えぇ……大丈夫です。ありがとうございます」


「貴方! 先生を誘惑しない!」


「え? そんなつもりは……」


 あぁーあ、ヤキモチ焼きの母さんの機嫌が悪くなり始めてる。

 もう面倒だし俺は自分の陣地に戻ろう……。


「はぁ……」


「相変わらずだな、お前の家族は」


「まぁな」


 陣地に戻ると英二が腕に鉄の棒を仕込みながら話しかけてきた。

 お前は一体その棒で何をする気だよ……。

 そんなことをしている間に体育祭は始まった。

 まずはシンプルな100メートル走だ。

 出場者は九条と英二。


「頑張ってね! 九条くん!」


「あ、あぁ、ありがとう」


 九条は桜川さんに声を掛けられ顔を赤く染めていた。

 あの二人はなんだかんだで距離が縮まっているようだ。

 そんな九条を種目が始まる前に無き者にしようとするうちのクラスの男子達。


「九条の野郎!」


「一生走れない体にしてやろうか!!」


 走れなかったら俺達の軍にポイント入らねぇんだけど。


「俺を応援してくれるやつはいないのね……」


 英二は完全に空気になっており、一人でいじけていた。

 結果、英二は二着、九条は見事一着で軍に貢献した。


「お疲れ様! すごかったね九条くん! 流石サッカー部!」


「ま、まぁな……」


 照れる九条は珍しい。

 そんな桜川と九条を見てうちのクラスの男子は嫉妬に狂っていた。

 九条、このまま陣地に帰ってきたら殺されるんだろうなぁ……。

 

「圭司、一応俺二位だったんだけど……」


「あぁ、お前は頑張ったよ」


「誰も相手にしてくんねーの……」


「頑張ったな」


 九条に嫉妬する男子達は英二のことなど気にしておらず、女子はまず英二に興味がない。

 流石に誰からも相手にされないのは可愛そうだ。


「野郎に褒められたってうれしかねぇよ! 九条の野郎!! 俺も混ざって九条を殺してくる!」


 そう言って英二は元気よく九条のところに角材を持って飛んでいった。

 さっき走ったばっかりなのによくやるなぁ……。

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