第293話 決意表明
「なぜ!? お金だって人気だって手に入るのよ」
「金はともかく、人気は要らないっすね」
「女の子にモテモテよ!」
「え?」
いや、そんな睨まないで川宮さん。
別に俺がモテたいとかそういうのじゃないから。
「別にモテなくて良いです」
「まぁ、圭司君は今もモテモテだしね」
そんな黒い笑顔を浮かべながら言わないでください川宮さん。
俺も最近色々自覚してるけどわざとじゃないんです。
「本当に本契約しないの?」
「しません、悪いんですけど諦めて下さい」
「そう……分かったわ、私の大人よここは潔く引きましょう」
「ぜんぜん潔く無かったですけどね」
やっと諦めてくれたか。
これで俺の短い芸能人生も終わりだ。
「じゃぁCMのギャラを振り込んでもらったらそのまま事務所は退社って感じですか?」
「えぇそうなるわ。ありがとうね」
「いえ、俺も良い経験が出来たので良かったです」
「後で退社用の書類を送るわ、残念ね貴方ならかなりの人気が出たのに」
「そこまで評価されるのは嬉しいですよ。でも俺は今のままで十分です」
俺は毎日ゲームが出来てたまにクラスの馬鹿共と面倒なことをして、たまに笑えるような日常があればそれで十分だ。
金だって他にバイトをすれば良いだけだし、人気だって要らない。
「そう、ごめんね疲れてるのに呼び止めて、ここは私が奢るから何か食べない? 真奈も食べたら?」
「私は今はダイエット中なので」
「俺も飲み物だけで十分です」
なんだかんだで結構良い人だったな。
その後俺達はファミレスを後にした。
岡島さんはそのままバイクで帰り、俺と川宮さんは一緒に自宅まで歩き始めた。
「残念ね、前橋君と仕事出来ると思ったのに」
「別に俺は芸能人になりたいわけじゃないですから」
「前橋君がうちの事務所入ったら他の子よりも一緒に入れると思ったのになぁ~」
「どうせ仕事が忙しいでしょ?」
「そうだけど……でもやっぱり好きな人一緒ってなんか楽しいからさ……」
「………」
なんて応えて良いかわからなかった。
率直に言うとその気持ちは凄く嬉しい。
でもここで俺が変な事を言ってしまったら、川宮さんを誤解させてしまうのではないかと思い何も言えなかった。
「圭司君はそろそろ誰と付き合うか決まってきてる?」
「え? それは……」
四人の気持ちに気が付いて結構時間が経つ。
俺は心の中で四人に対する返事をしなければと毎日思っていた。
しかし、考えれば考える程答えは出ない。
いっそこのままの関係でずっと居たいなんて馬鹿な事まで考えてしまう始末だ。
「川宮さん」
「何?」
「俺、多分ですけど皆好きなんすよ」
「え?」
「四人とも同じくらい大切で大事な存在なんですよ」
「そ、そうなの?」
「はい。井宮は趣味があって、高城はいつも優しくて、高ノ宮はなんか妹見たいで、川宮さんは頼れる姉さんって感じで……」
「わ、私は姉なんだ」
「まぁ年上なんで」
「それだけで!?」
「とにかく、俺みたいな面倒な奴の事を皆本気で考えてくれてるんですよ。それだけでも俺は嬉しいです」
「……そっか、圭司君はモテるもんね」
「なんでなんすかね、俺みたいな面倒な奴放って、他の男の所にいけば良いのに……でもそれもなんか嫌って言うか。どうせなら皆に幸せになって欲しいって言うか」
「圭司君が幸せにしてくれるんじゃないの?」
「俺が出来るのは一人だけです。他の人は傷つけて終わっちゃうかもしれません。俺はそれが怖いんです」
「……だからまだ選べないの?」
「いえ、長引かせる方が残酷です。だからいい加減に選びます」
「え……」
夕日が沈むのを眺めながら俺は川宮さんにそう決意表明をする。
川宮さんにこれを言った理由はただ単に話の流れで言った訳ではない。
一緒に居る時間が一番短いからこそ最初にこの決意表明をしたのだ。
「まだ誰を選ぶかなんて決めてませんけど、今のうちに言っておきます。俺を……好きになってくれてありがとうございます」
俺がそう言って頭を下げると川宮さんはアタフタしながら俺に応える。
「ば、馬鹿じゃないの! そ、そんなのあの……その……あぁもうズルい!! そんな事を真剣に言われたらもっと好きになるじゃん! 圭司君のたらし! 女殺し!」
「なんで俺は罵倒されてるんですか?」
「逆になんで貴方はそんなに鈍感なの!?」
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