第289話 セリフを変えて下さい



「はい、それでは流れを説明させていだきます」


「あ、よろしくお願いします」


 あの後俺はスタイリストさんに服を選んで貰いメイクをしてスタジオに入った。

 CMは新ドラマの告知用らしい。

 ドラマの撮影事態は来月から始まる予定で川宮さんはそのドラマのサブヒロイン役らしい。

 てか、そこに全然知らん奴が告知に出て良いの?


「井島さんはここでこう歩いてきて……」


「はい」


 先ほど楽屋に挨拶に来た井島さんはこのドラマの主役らしい。

 なのでCMも井島さんがメインらしいのだが……。


「え? セリフ?」


「はい、短いんですけどあるのでお願いします」


「はぁ……ちなみにどんな?」


「簡単ですよ、宮河さんに向かって「好きだよ愛してる」と行ってください」


 なるほど……難易度高いなぁ……。

 いや、分かってるよ?

 これはお仕事だし、仕事とプライベートは違うって。

 でもさ、今の俺と川宮さんの関係でこれをあの人に言うのは胸が痛む。

 だって本心じゃないし。


「わ、わかりました……」


「じゃぁ、お願いします」


 俺は悩んだ。

 まだ川宮さんとは会っていないが、川宮さんはこのことを知っているのだろうか?

 というか流石大人気アイドル、準備なんかに時間が掛かって遅いのか?

 他の出演者はもう来てるのに……。

 なんて事を俺が考えていると誰かの大きな声が聞こえてきた。


「宮河真奈さん入られまーす!」


 その言葉に後に入って来たのはメイクなどを済ませた川宮さんだった。

 いつも見る川宮さんとは違い、なんだかただものではないオーラを感じた。

 これが大人気アイドルの力か……。

 ただスタジオに入っただけなのに、川宮さんがなんだから凄くキラキラして見えた。


「うわぁ……めっちゃ可愛いっすね」


「あぁ、流石100年に一人の美少女」


 そのフレーズ良く聞く気がするのは俺だけ?

 俺がそんな事を考えていると川宮さんが俺を発見しぱぁっと笑顔になって俺の方に駆け寄ってきた。


「圭司君お疲れ様! なんだか今日はいつも以上にカッコいいね!」


「メイクさんが頑張ってくれたんで……川宮さんもなんか今日は良いですね」


「え? 良いって何?」


 目をキラキラさせながら俺の解答を待つ川宮さん。

 この人、絶対俺に可愛いって言わせたいんだろうなぁ……。

 そんな感じで来られると逆に意地でも言いたくなくなる。


「良いと思いますよ。女性らしいです」


「もぉー違うでしょ? ほら、ちゃんと言って!」


「え? あぁいつもよりまともですね」


「一体いつもの私はどうなってるのよ!」


「いつもはなんか怖いです、いろいろな意味で」


「そんなことないもん! ほら、いい加減に可愛いってお姉さんに言いなさい!」


「はいはいカワイイ」


「感情が籠ってない!」


 あぁ、やっぱり川宮さんは川宮さんだった。

 しかし感情を込めない感じ言ったがぶっちゃけめちゃくちゃカワイイ。

 確かにこの人は100年に一人の美少女かもしれない。


「ねぇ、あの男の子って宮河さんの後輩でしょ? ヤバイくらいのイケメンね」


「あれで今回は初仕事らしいわよ?」


「マジ? もしかしてこれから売り出すのかしら?」


「なんかあの二人だけレベルが違う感じがするわ」


 俺が川宮さんと話をしていると撮影スタッフの方々がそんな事を言っていた。

 川宮さんはともかく、俺は一般人なのだが?

 てか、そんな事を言ったら井島さんに悪いだろ。

 

「それで圭司君はCMで何をするの?」


「え? あぁ……えっと……」


 言い難い!

 貴方に「好きだよ愛してる」って言わなきゃいけないなんて!

 でもどうせ俺以外の人から聞くだろうしなぁ……いや、それなら自分でいう必要はないし、ここは適当に流して……。


「じゃぁ宮河さんそんな感じなんでお願いします!」


「は……はい!」


 しまった!

 俺が考えことをしている間にさっきのスタッフさんが俺の眼の前で川宮さんに説明してしまった!!

 ヤバイ!

 この状況はかなり気まずい……。

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