第288話 CM撮影に行きます
*
「えっと……ここか?」
休日の朝、俺はきちんとした恰好で街に来ていた。
今日は前々から言われていたCMの撮影日だ。
「面倒だなぁ……」
まぁ、でもギャラも出るっていうし、新しいPCを買う足しに出来るから良いか。
それにしても待ち合わせの時間なのにマネージャーの岡島さんが来ない。
スタジオに入るのに手続きが必要らしく、朝は岡島さんと一緒に行く手筈になっていたはずなのだが……。
「全然来ないなぁ……」
約束の時間になっても岡島さんはやってこない。
「待ち合わせの場所ミスったか?」
俺はスマホを取り出して岡島さんに連絡を取ろうとする。
すると、凄い勢いで一台のバイクが俺の眼の前に止まった。
「うぉっ!!」
「はぁ~あい、お待たせ」
「岡島さん……バイクも持ってたんですか」
「まぁね、今日は家からスタジオに直行直帰だし。さぁ行きましょうか」
「そうですね」
初めて入るテレビ局のスタジオは新鮮だった。
広い部屋の中央に撮影スペースがありスポットライトが当たっている。
スタジオの中にはカメラマンや俳優さん、テレビでみた事のある芸人さんなど、見覚えのある有名人がたくさんいた。
「凄いですね」
「でしょ? これが芸能界よ。貴方もこれからこの世界に入るのよ」
「いえ、入る気はありません」
「またそれ? もういい加減に覚悟きめなさい。断言するわ! 貴方は今日の撮影で絶対に有名人になるわ!」
「あぁ、そっすか……」
「あからさまに興味ない感じしない!」
スタジオをに行った後、俺は岡島さんに連れられて楽屋と呼ばれる場所に行った。
まぁとは言っても俺は無名も無名なので、小さい楽屋らしいが、そこで弁当とスタイリストさんがメイクなんかをしてくれるらしい。
「へぇ~こんな感じなんですね」
「まぁ、無名なうちはこんなもんよ。今からメイクさんとか来るから適当に待ってて、私は真菜の所に行くから」
「わかりました」
そう言って岡島さんは出て行った。
まぁ、こんな経験したくて出来るものじゃないし、今日は楽しみながら撮影に参加するか……。
って言ってもこんな陽キャの集まりみたいな場所にいつまでも居るのもなんか嫌だなぁ……。
皆俺の事を見てたし、アウェイな状況ってのも嫌だなぁ。
「さっさと撮影終わらないかなぁ……」
そんな事を考えていると、楽屋のドアをノックされた。
「はーい」
「お邪魔しまーす。おっ! 君だね、岡島さんが言ってた金の卵は」
「えっと……」
入って来たのは俺よりも少し年上そうな男性だった。
大学生くらいだろうか?
てかイケメンだなぁ……もしかして有名な俳優さんか?
それともアイドル?
こんな事ならもう少しテレビ見ておくべきだったなぁ……。
「あぁ、すまない。僕は井島豊(いしま ゆたか)俳優をしているんだ」
「すいません、あまりテレビを見ないので知らなくて……」
「いや、僕が勝手に来たんだ。君と話してみたくてね」
「俺ですか?」
なんで俺なんかと?
「あぁ、岡島さんが君の事をいつも話していたからね。君を才能の塊だと言っていたよ」
「俺がですか?」
「うん。でも僕もそんな感じがするよ。容姿もそうだけど、君には何かを感じるよ」
「そんなもんですか?」
「はははっ! まぁそんな事を言われても分からないよね? CMには僕も一緒に出るから、よろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
「じゃぁ、後でね」
そう言って井島さんは俺の楽屋を去って行った。
岡島さん、いろいろな所で俺の話をしてるのか?
俺は芸能界なんて一切興味がないって言ってるのに……。
「でも、契約書にサインしたのは俺だしなぁ……」
親父とお袋も特に反対してないし、唯一反対してる姉貴の理由も「けいちゃんのカッコ良さが世の中にばれちゃう!」って馬鹿みたいな理由だったし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます