第286話 何の話をしてたっけ?
「ユマリ……お前の気持ちは良く分かっているつもりだ。だからこそ、こんな中途半端な状況でおまえとそういうことは出来ない」
「先輩は相変らず真面目ですね」
「誠実だと言え」
「優柔不断だとも言いますね」
「うるせぇ……知ってるよ」
中学の頃にこいつと出会ったから俺は英司と知り合った。
そして英司と知り合ったから俺は今の学校に来て、井宮や高城と出会った。
それだけじゃない。
九条や八代とも出会えた。
俺がこうして変われた理由の切っ掛けはこいつなのかもしれない。
そう言う点ではこいつには感謝をするべきなのだろう。
だが、それと俺との関係は変わらない。
今の俺の気持ちは四人とも同じくらい大切な友人なのだ。
だから、まだ誰かを選ぶことも誰も選ばないという選択肢をとれない。
「いい加減どけよ。ゲームでもしようぜ、受験生にも生き抜きは必要だろ?」
「え? 脱衣麻雀ですか?」
「なんでだよ」
そもそも二人じゃ出来ねーだろ。
*
体育祭の練習。
そんなものが必要だろうか?
体育祭とは体育の祭りと書く。
言わばお祭りだ。
祭りに練習は必要か?
流れや進行を通して練習なんてなんでするんだ?
そんなのはただの演劇だ。
断言する!
体育祭の練習など必要ない!
むしろ参加すらも自由にして参加したいやつだけ参加するべきなのだ。
「というわけで、俺は今日は帰る」
「いや待て馬鹿」
「なんだ英司? 俺は帰る」
「馬鹿かまだ授業中だぞ、何帰ろうとしてんだよ」
「シンプルに体育祭の練習が嫌だ」
「正直だな……まぁお前は昔から体育祭とかマラソン大会とか、運動系のイベントが一番嫌いだったな」
「漫画やアニメの体育祭だってそこまで盛り上がらないだろ?」
「それは知らねーけど……」
「とにかく俺は帰る」
「待て待て、それは普通に怒られるって、嫌でも参加しろ馬鹿」
英司にしてはまともな事を言いながら俺はそのままグランドに連行された。
全くなんで体育祭の練習を午後の授業全部使ってやるんだ……。
「はぁ……嫌だなぁ」
「諦めろ、少しは九条と八代を少しは見習え」
そう言いながら英司は前を歩く九条と八代を指さす。
「うぉぉ! 燃えて来たな九条! 絶対に勝つぞ!」
「八代、お前の馬鹿力が役立つ時だ、騎馬戦は任せたぞ」
運動部の二人はなんというかやる気満々で目が輝いていた。
「おい、どうしたんだ前橋! 体育祭は軍同士のバトルだぜ! 目指すは優勝! お前は宿泊学習でも凄かったからな! 期待してるぜ!」
「気被るなよ……まったく」
「おい前橋、お前少しはやる気だせよ。嫌々するより楽しんだ方が良いだろ?」
「お前は桜川に良いところ見せたいだけだろ?」
「ばっ! まだ八代と笹原には言ってねぇんだよ!」
「あ、悪い」
焦った様子で俺に耳打ちをする九条。
どうやら半分くらいは俺の予想が当たっているようだ。
「あ! 見つけたぞ! 僕のライバル!!」
「また馬鹿が来た……」
「馬鹿とはなんとはなんだ! 文化祭での敗北、この体育祭で取り返すぞ!」
そう言ってやって来たのは俺の自称ライバル最上だ。
「最上、お前はまだそんなこと言ってるのか?」
「当たり前さ! 君は僕の親友でライバルなんだから!」
「自称な」
「とにかく! 今回は負けない! 個人戦でも軍対抗戦でも僕は君に勝つ!」
「燃えてるなぁー」
俺の熱量と反比例するように最上はそう言う。
そんな最上に反応したのは九条と八代だった。
「好き勝手言いやがって、勝つのは俺達だっての」
「あぁ、そうだぜ! 勝つのは俺達……リンゴ軍だ!!」
「え?」
八代の奴、今何軍って言った?
「そうはいかない! 勝つのは僕達バナナ軍だ!」
あれ?
こいつらいつから果物の話し始めた?
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