第285話 勉強場所

「そ、それじゃぁ俺コッチだから」


「うん、バイバイまた明日ね」


「お、おう」


 ようやく俺は一人になった。

 張り詰めていた緊張が一気に解け、俺はそのまま深く息を吐いてその場にしゃがみこんだ。


「なんで俺こんなに緊張してるんだ?」


 前まではこんなことは無かった。

 ていうか俺はあの二人を結構信頼しているし、少し前までは良い友人だと思っていた。

 それが告白という一つのイベントを挟んだだけでここまで変わるのか?

 なんでも皆はそんな一大イベントを中学の頃に俺なんかにバンバンしてたんだ?


「わからん。こんなの告白された方もした方もまともな精神状態じゃ居られないぞ? なのになんで皆平然と告白したりしてんだ?」


 俺はそんな事を考えながら自宅に帰って来た。

 ドアの前で自宅の鍵を探していると、突然背後から誰かに抱きしめられた。

 微かに香って来る良い香り……匂いで分かってしまうのもなんだが、俺は誰が抱きついてきたか分かってしまい、深いため息を吐く。


「おい、ユマリ離せ、重たい」


「あぁ! 女の子に重いって言いましたね! 重くありませんー! 私はリンゴ三個分の重さしかありませんー」


「お前はどこぞのサン〇オキャラだ……」


「うふふ、ねぇ勉強教えてくださいよぉ~保健体育が私分からないんですぅ~」


「その教科は受験に関係ないだろ」


「もぉ~察して下さいよぉ~」


「え? 何を?」


「はぁ……先輩マジでそういうところですよ」


「何がだよ、良いから離れろ、俺はさっさとゲームがしたい」


「じゃぁ早く鍵を開けて下さいよ」


「お前ついて来る気だろ?」


「はい」


「来るな馬鹿」


「嫌です」


「なんでだよ……」


「だって、学校ではあの二人のターンですからね。放課後は私のターンです」


「なんだよターンって、良いからさっさと帰れ」


 とは言ったもののこいつがそんな話を聞くはずもなく、案の定俺の部屋までついてきた。


「結局ついてきやがって」


「えへへ、良いじゃないですか。ちゃんと勉強しますから」


「自分の部屋で勉強しろよ」


 俺がそんな事を言いながら鞄を整理していると、ユマリも持っていた鞄から勉強道具を取り出して俺の部屋のテーブルに広げ始めた。


「今日は数学かなぁ~」


「マジでここで勉強するのかよ」


「はい。私は恋に勉強に今かなり忙しいんです」


「どっちかにしろよ」


「私はどっちも欲しいですから」


 ニコッと笑ってそういうユマリ。

 その笑顔の意味は俺に向けた好意であることもわかっている。

 だからだろうか、こいつのことも最近は意識してしまっている。


「えっと……これがこうで……」


 言った通りユマリは俺の部屋で勉強を始めた。

 特に俺に何かをしてくるわけではない。

 まぁ、別に俺の邪魔さえしなければ良いのだが……前までは俺の邪魔をしまくっていたのでこの変わりようは怪しい、何か裏があるはずだ。


「先輩、これ教えてください」


「あぁ、ここはな……」


「あ、ありがとうございます」


 以外にもユマリはちゃんと勉強していた。

 俺はその隣で今日買ってきた新作ゲームをプレイし、ユマリに質問されたら教えるといった流れになっていた。

 こいつ、マジでただ勉強しにきただけなのか?

 それならまぁ、家庭教師まがいのことも少しくらいするけど。

 なんて事を思っていたのだが……。


「せーんぱい」


「ん、おい……」


 勉強を終えたユマリはいきなり俺の背中に覆いかぶさってきた。


「勉強終わりましたよ? 遊びましょう~」


「じゃぁ離れろ」


「嫌ですよ」


「なんでだよ……」


「え~、だって私は先輩とイチャイチャしたいじゃないですか~」


「そんな当然のことのように言われても……」


「したいですよ。だって好きなんですもん」


「………」


 耳元で囁かれたその言葉に俺はドキッとしてしまい、言葉を失ってしまった。

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