第282話 この気持ちは誰でも持っている
俺は屋上を後にして笑みを浮かべながら教室に向かう。
「あいつ、始めて話た時はオドオドしてたのに……今じゃ全然じゃねぇか」
なんでだろう。
神影に彼女が出来て、内向的な性格が変わっただけで俺は何もしてないはずなのに、なんでこんなに嬉しいのだろう。
「なんか気持ち悪いな俺……」
自分で自分の事をそう思いながら、俺は廊下を歩いていた。
そしてクラスの男子達に見つかった。
*
「なぁ、お前らってなんで彼氏彼女のことになるとあんな団結するの?」
「同じ志を持っているからな」
「だからってマジでやりすぎだと思う……」
俺は捕まってそのまま男子達にリンチされそうなところを何とか逃げて、職員室という聖域に逃げ込んだ。
普通なら入り難いあの職員室が聖域に見えたのはこの時が始めてだった。
その後担任の先生と一緒に職員室から教室に戻った。
先生は「またか」と言った顔でもう馴れた感じだ。
そのままホームルームは平和に終わり、流石の男子達も10分の休憩時間では何もしてこなかった。
「英司よぉ」
「なんだ?」
「少し聞いていいか?」
「彼女の作り方なら知らんぞ」
「知ってるよ。いや、あのさ……自分のことでもねぇのに自分のこと見たいに嬉しいことってあるか?」
「はぁ? 急になんだよ」
「いや、ちょっとな……」
「まぁ、あるだろ? 応援してたアイドルが武道館行ったとか、応援してた動画配信者がテレビに出ることになったとか……まぁ、応援してた奴の夢が叶ったり、何かを成し遂げる姿ってのは自分のことじゃなくてもなんか嬉しいだろ?」
「なるほど……」
すると、俺は心のどこかで神影を応援してたのか?
いや、にしたってなんで?
今まで他人なんてどうでも良かったのに……。
それに俺は神影の何を応援した?
「なんだよ、お前にもそんな瞬間あったのか?」
「あぁ、神影のことがな……なんか、内向的だったあいつを知ってるから、今日話してすげー学校楽しそうで、彼女も出来て、なんか嬉しくなっちまった。気持ち悪いよな? 俺?」
その時俺は英司がいつものように俺に同調して「きもちわるい」と言ってからかってくるのかと思った。
しかし、今日の英司は違った。
「そっか……お前にこの学校を勧めたのは正解だったみたいだな」
「え?」
英司はからかうどころかいつになく優しい顔で俺を見て笑った。
決して馬鹿にしている訳ではない。
言うなれば、さっき俺はこいつに相談した「自分のことでもないのに自分が嬉しい」みたいな感じの笑顔を俺に向けてきた。
「お前、やっぱり変わったよ。良い意味で」
「なんだよ急に気持ち悪りぃなぁ」
恥ずかしさで俺はそんな事を言ってしまったが、俺は英司のこの言葉と笑顔の意味がわかっていた。
きっとこいつは嬉しかったのだろう。
中学時代の俺を知っていて、そして他人と距離を置くことしか考えなかった俺が他人の幸福を喜んでいる。
そんな俺を見て、英司は馬鹿にするのではなく、純粋に俺の成長をが嬉しかったのだろう。
「人間誰だってどこかしら気持ち悪い部分があるんだよ。まぁ、それはそれとして……」
「え?」
何となく良い感じの雰囲気だったのに、急に男子たちが俺を取り囲み始めた。
「お前がモテるのはシンプルにムカつくから、制裁の続きをする。覚悟は良いな?」
「くそっ!! 俺を油断させる為の罠かっ!!」
「あ、逃げたぞ!」
「追え!! 神影み逃がすなぁ! それと九条もだっ!!」
教室を飛び出した俺は直ぐにあの聖域に向かう。
一瞬でも英司を良い奴だと思った数分前の俺を殴ってやりたい!
「はっはっはぁぁぁ!! 圭司! 俺はモテるお前が憎いぃぃぃぃ!!」
「さっきのあの話は何だったんだよ!!」
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