第281話 一歩踏み出した奴

「ど、どうしたんだ神影……あのお邪魔だろうし俺は帰った方が……」


「そんなことないよ、僕ずっと君にお礼が言いたかったんだ」


「お礼?」


 お礼の前に俺をメチャクチャ睨んでくる菊川は何なんだよ。

 頼むから、お礼とかどうでも良いから、ここから退散させてくれ!!


「うん、僕君のおかげでクラスの皆と打ち解けられて……自身も付いたんだ……本当にありがとう」


「そ、そうかそれは良かった! じゃぁ俺はそろそろ……」


「あ、待って。それでもう噂になってると思うけど……その……夏休みに菊川さんと付き合うことも出来て……」


 恥ずかしそうにいうお前の後ろで阿修羅みたいな顔をしているその方ですね、わかります。

 ってか、なんで菊川はそんなに俺を敵視するの!!

 もう怖いよ!

 ただでさえ怖いのにもっと怖いよ!!


「そ、そうか! それは良かったな!」


「うん、そのお礼が言いたかったんだ」


 純粋な目で俺を見てくる神影。

 感謝はかなり伝わって来る。

 しかし、それと同時に後ろの菊川さんの嫉妬心も伝わってくる。


「おい」


「は、はい!」


 そしてとうとう神影の背後の菊川さんが声を出した。

 うわぁ、一体何を言われるんだ?

 てか、僕何も悪いことしてませんよねぇ!?


「あんまり深と仲良くすんなよ……」


「え?」


「だ、だから!! 深が前橋前橋ってずっと言ってんの! 何? アンタ私の彼氏になんかしたの?」


「いえ、全然全く何も」


 え?

 何?

 この子、俺に嫉妬してるの?

 神影を取られたくなくて嫉妬してるの?

 あぁ~恋は盲目って言うしなぁ~。


「き、菊川さん、前橋君は悪くないよ。僕が勝手に前橋君を尊敬してるだけで……」


「それが私は嫌なの! それに名前で呼ぶ約束でしょ!」


「で、でもその……まだ恥ずかしいっていうか……呼びなれないっていうか……」


「呼んでくれないと寂しいでしょ!」


「わ、わかったよ! ごめん!」


 なんだこれ……。

 なんで俺は屋上でさっきから神影と菊川のいちゃいちゃを見せつけられてんだ? 

 てか、俺全く悪くねぇじゃん。


「はぁ……神影、彼女のこと大切にしろよ」


 じゃないと菊川が嫉妬して何かしでかしかねないからな。


「そうだよね……大切にしているつもりだったけど、不安にさせちゃだめだよね。前橋君には教えて貰ってばっかりだよ」


「たく、菊川が俺を睨むから何事かと思ったよ」


「う、うっせぇな! 深が私と一緒にいるのに前橋のことばっかり話すから……」


「あのなぁ、俺は男なんだからお前の恋敵にはならねぇよ」


「で、でも! 最近は男同士も恋愛するってクラスの奴らが言ってたぞ!」


「それはごく一部のファンタジーだ……」


 きっとクラスの漫画大好き女子の仕業だな。

 

「てか、お前らいつの間に付き合ったんだよ? すげー気になんだけど」


「実はその……文化祭の打ち上げの後に仲良くなって……な、夏休みも一緒に居る機会が多くて、それで……」


 マジかよ。

 夏休み明けで友達と会うと大人になってる奴が居るって話し聞いたことあるけど、まさか神影だったとはな……。


「僕がこうして一歩踏み出せたのは前橋君のおかげだから……だからお礼が言いたかったんだ。ありがとう前橋君、背中を押してくれて」


「別に俺は何もしてねぇよ。一歩踏み出しのも彼女を作ったのもお前の努力した結果だ」


 まぁ、前の暗い感じの神影よりも今の方が絶対に良い。

 勝手にカラオケ誘って申し訳なかったような気もしてたけど、いろいろ上手く行って良かった。

 てか、菊川と夏休みに何があってここまでになったんだ?

 菊川ベタ惚れ過ぎだろ?


「イチャイチャしてるとこ邪魔して悪かったな、それじゃぁ先教室行ってるぞ。お前らはもう少し遅く来た方が良いぞ、馬鹿共が何するかわからねぇからな」


「い、イチャイチャなんてしてねぇよ!」


 してたじゃん。

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