第280話 女子に睨まれたのは初めてです
「それでこの馬鹿共の怒りを買った哀れな男子は誰だ?」
「聞いて驚けよ……神影だ」
「へぇ、神影……え!?」
俺はあまりにも意外な人物の名前に英司の方を振り返った。
「神影って、あの神影か!?」
「そうだ、男子は最初嘘だと思ったんだが……今朝仲良く神影が……菊川さんと手を繋いで登校してきたんだ!!」
菊川とは同じクラスの女子で菊川琴乃(きかわ ことの)のことだ。
茶髪に思い切り短いスカート、そしていつも不機嫌そうにしており男子を毛嫌いしている女子だ。
クラスでは不良っぽい奴と言われていたが、まさかあの菊川とは……。
全然タイプが違うし、正直どっちから告白したかが気になるところだ。
「それで当の本人達は?」
「来て早々どこかに行ってしまった。だから俺たちは神影をどうやって拷問しようか今作戦を練っていてだな」
「彼女がいる奴なら誰でも良いのなお前ら……」
しかし、あの神影に彼女とは……なんだか俺も嬉しくなってしまう。
あいつは文化祭の打ち上げまで引っ込み思案でなんだか昔の俺に似ていたから、勝手に近しい何かを感じていた。
そんな神影に彼女か……。
「あいつも変わったんだな」
「馬鹿野郎! 何馬鹿な事を言ってるんだ! このクラスでの抜け駆けは死を意味する。まさか全くのノーマークだった神影が彼女を作るなんて……リア充撲滅委員会の会長として情けない!!」
「お前会長だったの?」
「とにかく! 早く奴を見つけて八つ裂きにしないと……」
「んな事してるからモテねぇんだよ」
「圭司、お前もそんな調子で良いのか?」
「何?」
「お前の噂はもう広がってんだぞぉ……隣の家の謎の美少女に他の学校の可愛い女子……お前どんだけモテるんだよ!!」
「い、いや……別にモテたいわけじゃ……」
「はぁ~? モテたい訳じゃない? 良いですねぇ~そんな事を思わなくても女が寄って来ると? はぁ~?」
「んな事言ってないだろ」
「言ってるようなもんだ! 皆やっちまえ!!」
「「「「イィーッ!!」」」」
「お前らはどこぞの戦闘員か!!」
圭司の掛け声と共にクラスの馬鹿共が俺に向かって飛んでくる。
俺はそんな馬鹿共から逃げながら教室の外に出た。
「ったく……あいつら夏休み明けからこれかよ……」
俺は見つからないように屋上に通じる階段の踊り場に身を隠した。
「朝礼が始まるまでここで身を隠すか……」
俺は屋上に通じるドアの前にもたれ掛りながら時間つぶしにスマホを取り出す。
ゲームでもしようと思ったのだが、ドアの向こうから声が聞こえて俺はスマホを持ったまま小窓から屋上を覗く。
「誰だ? こんなところで……」
窓から見えたのはなんと神影だった。
神影以外にも誰かいるようで神影以外の声も聞こえてくる。
「あ、あのさ……やっぱり手を繋いで登校するのはやり過ぎだったんじゃ……」
「な、何よ嫌なの? 別に良いでしょ……」
「いや、でもまだ早かったような」
「そ、そんなことないわよ!」
どうやらクラスで今話題の神影と菊川が話をしているらしい。
なんだ、こいつらこんなところにいたのか、邪魔をするのも悪いしここから離れるか……。
そう思っていたのだが……。
「あっ……」
元々ドアの建付けが悪かったのか、俺がもたれ掛っていたドアが壊れ外側に倒れた。
俺はそのまま地面に倒れ屋上に出た。
「え!?」
「な、なによ!!」
「あてて……わ、悪い……別に覗くつもりは無かったんだ」
「ま、前橋君!?」
やべぇ……気まずいなぁ……。
ここはドアを直してさっさと退散しよう。
「じゃ、じゃぁお邪魔しました……」
「あ、待ってよ前橋君!」
俺がドアを持ってその場を後にしようとする神影が俺に駆け寄って来た。
そして、何故か俺を睨む菊川……怖い、女子の睨みも結構怖い。
帰りたいなぁ……。
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