第277話 俺の大事な人
「え~何ナンパぁ~?」
「うっそぉ~マジ~? ウケるんですけどぉ~」
「あ……いや、あの……」
まさかの英司が声を掛けた化け物に腕を掴まれてしまった。
英司は冷や汗を流しながら顔を真っ青にしている。
俺もなんだか嫌な予感がしてきていた。
「す、すいません間違えたんです……」
「なによぉ~ナンパして来たのはそっちでしょぉ~?」
「あたしたち暇だから遊んであげるわよぉ~」
「まぁ顔はどっちもいまいちだけど、仕方無いわねぇ~」
「あら? やだぁ~こっちはイケメンじゃな~い!」
そう言って怪物の片割れが俺の腕に抱きついてきた。
やめろ触るな!!
そう叫びたかったが怖さで声が出なかった。
「それでどこ行く? カラオケ? それともボーリング?」
「い、いやですから間違いで……」
「私貴方の彼女にだったら今すぐなってあげられるわぁ~」
「……」
かろうじて声を出す英司はすごい。
俺は恐怖のあまり全く声を出せなかった。
抱きつかれているカ所に鳥肌が立つ。
もう離せ!
間違いだって言ってるだろ!
人を見た目で判断するのはあまり良くないと自覚しているが、流石にこの見た目でここまでぐいぐい来られると若干引いてしまう。
いや、初対面でこれだけぐいぐいくるこいつらがおかしいんだろうけど……。
「ほら、いきましょう!」
「私達と楽しみましょう」
うわぁぁぁ!
手を引っ張るな!!
助けて!
誰か助けて!
こんな怪物達の相手をすることになるなら家でゲームしてた方がマシだった!!
そんな事を考えながら俺は固まっていた。
固まった俺を怪物の片割れはずるずる引っ張っていく。
英司は手を振りほどこうと必死だった。
そんな時だった。
「ねぇ、アンタら何してるの?」
「え?」
「あ、い…井宮……」
助けを求めはしたが神様……人選ミスってないか?
俺達に声を掛けてきたのは井宮だった。
レジ袋を下げている様子を見るに買い物帰りだろう。
「何よこの女?」
「ぶっ細工ねぇ~」
「はぁ!? いきなり何よ! 失礼ね!」
あろう事か怪物達は初対面の井宮に不細工と言い放った。
もう失礼とかそういうのを越えてこいつらの言葉は害だと思う。
その言葉に井宮は青筋を立てて反応する。
「大体アンタらこの失礼な女と何してるのよ! 前橋なんて電話も出ないし!」
え?
電話してたの?
そう言えば怪物に連れて行かれそうになった時にポケットに違和感があったような?
「ナンパされたのよ」
「これから遊びに行くんだから、アンタみたいな不細工は引っ込んでてよ!」
「なっ……何ですってぇ……」
あぁあ……不細工って連呼するから井宮の怒りがドンドン溜まって来た。
「井宮違うんだ! 俺たちは間違えてこいつらに話し掛けて無理やり!!」
白々しいな英司、本当はナンパ目的だった癖に……。
まぁでも本当の事を言ったらまずいしな。
「って言ってるけど? さっさと話してあげなよ」
「うるさいわね! じゃぁこっちはアンタにあげるわよ!」
そう言って英司が解放された。
あれ?
俺は?
そんな事を考えていると、もう片方の腕にもう一人の怪物が開きついてきた。
やばい、怪物に挟まれた!
や、やられる!!
「私たちはこっちのイケメンと仲良くさせてもらうわ」
「アンタみたいな不細工にはその男がお似合いよ!」
「はぁ!?」
あぁ、井宮の怒りがどんどん上がっていく。
てかもういい加減離せよ不細工共!!
井宮が不細工だったらお前らは怪物だろうが!
そうだ!
この言葉をそのまま言ってぶち切れて帰ろう!
そうすれば井宮を悪く言ったことにキレた感じになるし、こいつらには友人を悪くいう奴は嫌いだってそう言えるぞ!
よし!!
「うるせぇんだよ不細工共。井宮が不細工だったらお前らは化け物だろうが、俺の大事な人を馬鹿にしてんじゃねぇぞ」
ゆっくり静かな声で俺は怪物共にそう言った。
まぁ途中からなんかムカついて余計に色々言ったけど大丈夫だろ?
俺の大切な友人を馬鹿にしたんだ、これくらいいっても罰は当たらないだろ。
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