第273話 姉貴は見ていた



「そんじゃな」


「うん、じゃぁね」


 結局井宮の家を後にしたのは11時頃だった。

 考えて見れば俺は女子の部屋にお泊りしたのだ。

 男子高校生なら一度は夢見る理想のシチュエーションだろう。

 

「こんな事をうちのクラスの連中に言ったら殺されるだろうな」


 そんな事を考えながら家に向かって歩いていると、何やろおどろおどろしい感覚を背後に感じた。

 なんだこの感覚は? 

 俺は恐怖を感じて背後を振り返った。

 するとそこには……。


「けいちゃん……一体昨日は……なに……してたの?」


 姉貴がいた。

 しかもヤンデレモードで……。


「あ、姉貴……」


「さっき、井宮って表札の家から出てきたよね? 女の子の家に泊ったの? なんで? ねぇなんで?」


「ま、まってくれ姉貴これには色々と訳が……」


 しまった、井宮の家を出たところから見られていたらしい。

 もう目に光が無いし、今にも襲い掛かってきそうな勢いだ。

 てか、なんでこんなバットタイミングで姉貴と遭遇するんだよ!

 

「けいちゃん……やっぱりけいちゃんは外に出ないでお姉ちゃんと一緒に一生家で暮らした方が良いんじゃない?」


「な、なんで手錠なんて持ってるんだよ……」


「もしもの時の為に買ったんだ……最近はネットで色々変えて便利だよね?」


 あ、やばい……監禁される。

 そう思った俺は駆けだしていた。


「助けておまわりさぁぁぁん!!」


「けいちゃん待ちなさい、必ず捕まえるからねぇぇぇぇぇ!!」


 なんで俺、こんなヤバイ姉と一緒に生活してるんだろ?

 その後、家に帰って俺は母さんに助けを求め、姉貴は母さんに気絶させられた。

 

「まったく、アンタはそろそろ弟離れしな」


「母さん助かったよ」


「そろそろ圭司か知与のどっちかを家から追い出すべきかしら」


「その場合は是非姉貴を追い出して下さい」


「それよりも……女の子の家にお泊りしてたの? アンタもやるわね」


「い、いや……これには結構重要な理由があって……」


「別にお母さんは責めないわよ? ただちゃんとゴムはしなさい、流石に高校生で妊娠はヤバイわ」


「そんなんじゃねぇよ!!」


「あ、向こうが用意したゴムは気をつけなさい、穴開けられてて気が付かない間に既成事実を作られる可能性あるわ」


「だからそんなんじゃねぇって!!」


「そう言えば母さんとは毎回避妊してたような……なんで妊娠を……」


「お父さん、余計なことを気にしちゃだめよ」


「そうか。そうだな」


「親父……」


 さっきの作戦は母さんの実体験に基づくものだったらしい。

 てか、父さんいままで不思議に思わなかったのか……。





「夏休みももう終わりか……」


 部屋でカレンダーを見ながら俺はそんな事を一人で呟いていた。

 始まった頃はかなりわくわくしたのに、今となっては切なくなる。

 また学校の毎日が始まると思うと憂鬱で仕方なかった。

 

「はぁ……まぁ残りの夏休みを満喫するか!」


 俺はそう言いながらPCの前に向かった。

 そしてゲームを始めようとした瞬間、机の上のスマホが鳴った。


「ん? 誰だ? 英司か……無視しよう」


 どうせろくでも無い用事だろう。

 それよりもゲームだゲーム。

 なんて事を考えながら電話を無視するが電話は何度も掛かって来た。


「うるせぇなぁ……諦めろよ」


 なんて事を考えていると今度は家のインターホンが鳴った。

 俺は嫌な予感がした。

 すると、一階から母さんの声が聞こえてくる。


「圭司! 英司君が来たわよぉ!」


 やっぱり……。


「居ないって言ってくれ!」


「本人の前で居留守使おうとするなよ」


「うぉっ! 勝手に入ってくるなよ!」


「いや、お前のお袋さんが入れてくれたんだよ。てか無視すんなよ! 親友をないがしろにしやがって!」


「いや、どうせろくなことじゃないと思って」


「お前昔は俺の事を唯一の友達とか言ってなかった?」

 

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