第269話 戸惑う二人



「お、お邪魔します」


「はい、いらっしゃい」


 夜の20時、俺はまさかの井宮の家でお泊りゲームをすることになってしまった。

 ヤバイ……なんだこの状況……。

 いや、俺が行くと言ったんだけどさ、家に一人で心細いとか言われたら断れな……いや、断れるな……あれ?

 なのになんで俺はここに来たんだ?

 ゲームがしたいからか?

 それなら家に帰って自分のPCからログインすれば良くないか?

 うーむ?


「どうする? ご飯食べる? それともお風呂入る?」


 なんだこの新妻が旦那にする見たいな質問。

 いや、男の夢ではあるのだが……。

 それに井宮も別に他意はないはずだ。


「じゃ、じゃぁ風呂借りて良いか? 汗かいちまったから」


「良いわよ、コンビニに行く前に沸かしてたからもう沸いてると思うわ」


「あ、あぁありがとう」


「タオルはこれ使って、着替えは流石に無いけど」


「あぁ、大丈夫だ。持ってきた」


 井宮の家に来る前、俺は自宅によって着替えだけを持ってきた。

 短パンとTシャツ、そして下着を持ってきた。

 

「女子の家の浴室か……エロゲーでしかこんなシチュエーションないと思ってたけど……ま、まさかな」


 こういう時にゲーム脳は嫌だ。

 もしかしてこの後エロいイベントが?

 なんて事を考えてしまう。

 まぁでもあの井宮に限ってそれはないだろう。

 なんだかんだ言っても冷静だし、俺が手を出そうとしても俺に顔面グーパンチを食らわせて来そうだし。

 てか、俺は井宮に手を出すのか?


「………無いな」


 多分ゲームに集中してそんなの気にしないだろう。

 

「さて、汗を流すか」


 俺は服を脱いで風呂場に入った。



 ヤバイ……私何をしてんだろ……。

 私は今日コンビニで偶然あった前橋にとんでもない事を言ってしまった。


「へ、部屋は綺麗よね? 変な匂いとかしないわよね?」


 あいつがお風呂に入ってるうちに私は自室の掃除をしていた。

 前とは違い、自分の思いを伝えた後に部屋に呼ぶんだ、こっちも意識してしまう。

 

「ベッドは綺麗よね? えっと一応ティッシュも新しいのに……って私何を考えてるのよ! あいつとはただゲームをするだけ!」


 自分で言って自分でツッコむなんてなんて間抜けな姿だろう。

 でもそこまで自分を見失う程、私は前橋を好きになってしまった。

 コンビニでも平静を装うので精一杯だった。

 だからあんな訳の分からないことを言って家に連れてきてしまったんだ。

 もちろん会えて嬉しくて舞い上がってしまったということもある。

 でも、まさかこんな事になるなんて……。


「私告白したばっかりなんだけど……てかあいつ告白したこと忘れてないわよね?」


 ライバルが多い分私も本気にならないとと思ったけど、これは飛躍しすぎよね?

 ま、万が一そう言う事になったら……やっぱり痛いのかな?

 

「って違う!」


 どうやらあいつより私の方がそう言う事に興味があるみたい。

 でも……あいつらな別に……。


「おい、上がったぞ」


「う、うわぁぁ!!」


「え? な、なんだよ……」


「あ、あぁごめん。ちょっとビックリしただけ……ご、ご飯食べてて私も入って来るから」


「あぁ、分かった……」


「覗かないでよ?」


「覗かねぇよ」


 そんな本当に何の興味もない顔で言わなくても良いじゃない!

 少しくらい私の身体に興味を持ちなさいよ!!


「はぁ、何緊張してんだろ……てかあのゲームオタクが私の身体に興味なんてないか……どっちかって言うと二次元の女の子の方が良いかもね」


 言ってて悲しくなってきた。

 そう言えばこのお風呂にあいつが入ったのよね?


「………」


 私は少しいつもより長く浴槽に入っていた。

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