第266話 出番のなかったアイドル

「え? 私に会いに?」


「いえ、そう言う訳では……」


「え? 私とこの後デートがしたい?」


「一言もそんな事は言ってません」


 呆れる俺を他所にまるで少女のようにはしゃぐ川宮さん。

 そんな俺達をその場に居た周りの他のモデルやアイドル、撮影しているカメラマンまでもが注目していた。

 

「あの……なんか見られてるんで静かにしてもらえません?」


「私は別にうるさくなんてしてないわ、皆圭司君が気になってるのよ」


「別に俺に注目なんてしないでしょ? 俺は言ってしまえば一般人見たいなもので……」


「えぇ、そうなんですよ、うちの事務所の新人でまだデビューしてなくて、今日は現場馴れさせようと思って連れてきたんですよぉ~」


「あれ? 岡島さん?」


 気が付くと岡島さんは営業モードになり、撮影現場の偉そうな感じの人と話をしていた。


「へぇ~スタイルも顔も良いし、売れるんじゃないか?」


「なんだったらうちの雑誌で今度載せてみますか?」


「あら、本当ですか! それじゃぁ詳しい話は後ほど……」


「岡島さん」


「あら? どうしたの? 私は今仕事で忙しいのよ」


「その仕事に関してですけど、まさか俺絡みじゃないですよね?」


「え? 何を言ってるのそうに決まってるでしょ? さぁ、早く挨拶して」


「アンタ俺とした契約忘れてるだろ……」


 俺は事務所に入る時に仕事をするのは一回限りとしっかり書面に残して契約をした。

 CM撮影をしたら俺は事務所から名前を消す。

 それなのになんでこの岡島さんは俺に仕事を振ろうとしてくる。

 いい加減俺以外のそれこそ金の卵でも探しに行って欲しいものだ。


「もう! 折角お仕事貰えるチャンスだったのに!」


「契約忘れたんですか? 良いからもう二度とあんな事はしないで下さい!」


 営業モードの岡島さんを強引に連れ出して俺と川宮さんはスタジオを後にした。


「でも来てくれて嬉しいな、お姉さん夏休みは仕事ばっかりで圭司君に会えないくて毎晩枕を濡らしてたから」


「あぁ、寝汗がすごいんですね」


「もう! 乙女に対してそれは酷くない!?」


「お……とめ?」


 無理やりキスしてくるような人を乙女と呼んで良いのだろうか?

 乙女って言ったらもっとおしとやかなイメージなのだが……。


「もう! まぁ良いわ。お姉さん今日はもうお仕事終わりだから部屋に来ていいわよ。美味しいご飯作って上げる」


「いえ、結構です」


「なんでよ!」


「普通に川宮さんの家に行くのが怖いです」


 またなんかされたら嫌だし……。


「えぇ……普通女子の部屋に誘われるなんて男子からしたら神イベなのに……」


 俺にとってそれは別に神イベではない。


「良いから来てよ! どうせ圭司君、他の女の子と海に行ったり花火を見たり、告白されたり、青春を謳歌してたんでしょ! 私だって夏休みに青春したいわよ!」


「いや、アンタエスパー?」


 俺の夏休みに起こった出来事を全部言い当てやがった……。

 でも確かに川宮さんとは特に夏休み何かあった訳じゃないし……それにこの人まだ俺の事を……。


「……何もしないで下さいよ?」


「うん! 絶対しない!」


「それ、普通男子が女子にいうセリフじゃない? しかもその言葉の信頼度ってかなり低いのよね……」


 俺と川宮さんの会話を岡島さんはため息を吐きながら見ていた。

 まぁ飯くらい良いだろう。

 それに家に一人で居てもいろいろ考えて落ち着かなさそうだし。

 

「じゃぁ、私はこのまま事務所に帰るから、二人も気を付けてね。あとくれぐれも避妊はしてよ? 妊娠なんてしたら真奈の芸能人生が終わるんだから!」


「絶対にそういうことは無いので安心してください」


「えぇ……無いの?」


「ありません!」


 なんで残念そうなんだよ……。

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