第263話 シュミレーションってなんだろう……


「……ただいま」


「お帰りなさい、如何だった花火は?」


「あぁ……多分綺麗だった」


 俺は花火大会からそのまま帰宅した。

 井宮からのあまりの衝撃的な言葉に驚き、あの後のことはあまり良く覚えていない。


『……私よ』


 あの時言われた言葉が今でも耳元に残っている。

 真っ赤になった耳にどこか気恥ずかしそうな井宮の顔。

 間違いなくあれは本気だった。


「井宮が……」


 俺はずっと井宮とは気の合うゲーム友達感覚で接してきた。

 でも井宮はそうでは無かったらしい。

 俺を男として見ていて、俺が好きだとそう言ってきたのだ。

 今思えばあの海での俺の言葉で井宮がなんでおかしくなったのかも理解出来る。

 そりゃあ好きな相手からあんな事を言われたら誰だっておかしくなる。


「はぁ……マジか……」


 三人でも多いと思っていた女子の数はまた増えて四人になった。

 しかもまさか井宮までとは思わなかった。


「どうしたら良いんだよ……」


 九条からは、今日の件に関してのお礼のメッセージが届いていたが、今は九条の事などどうでも良い。

 部屋に戻り俺はベッドの上にうつ伏せになって考える。

 一体井宮はいつから俺が好きだったんだ?

 普通に二人でイベントとか行ったし、それに海でだって割と普通だった。

 いつあいつの心境に変化があったんだ?

 分からん。

 女子と付き合ったことがないので女子の気持ちなんて微塵も分からん。

 そしてなんで俺を好きなのかも一切わからん。


「やっぱり顔なのか?」


 一番モテる要素といったらそこだが、井宮は俺の中身の話しもしていた。

 学校の中では一番俺を理解している英司からは「お前みたいな中身が残念なイケメンはそうそういない」と言われてほど面倒な性格をしているらしいし……。


「謎だなぁ……」


 こう言う時に女子の気持ちが分かる装置とかあれば解決なんだけど……あ。

 

「確かここに……あった」


 俺はクローゼットを開け、中からとあるゲームソフトを取り出す。


「全年齢版が携帯機で出てたんで買ったんだよな……これをすればもしかすると少しわかるかも」


 そう言って俺が取り出したのは大人気恋愛シュミレーションゲーム「恋学(こいがく)」という恋愛シュミレーションゲームだ。

 恋を知らない主人公がヒロイン達を通じて恋を学という大人気恋愛シュミレーションゲーム。

 最初はR指定が掛かったそういうゲームだったが、この全年齢版が出たことで大ヒットしたのだ。

 ゲームシステムが面白いと聞いて俺も勝ったが同じ月に出たゲームが面白くてずっとクローゼットの奥で眠っていたのだ。

 

「よし、これで少しは女の気持ちも分かるだろう」


 俺はこの時多少頭が混乱していたせいか、そんな事を本気で思っていた。

 女の気持ちを知れば、今後この四人にどう接して行けば良いのか分かると思ったからこのゲ―ムをプレイしようと思った。


「どうせ明日も休みだし」


 俺はそう思いながら携帯ゲーム機でゲームを始めた。

 そして翌朝……。


「うっ……ま、まさかヒロインが宇宙人で主人公が地縛霊だったなんて……」


 がっつりプレイしてがっつりハマってしまった……ゲームに。


「マジかよ、まさかこんなに面白いなんて……これって確か今年続編出てたよな?」


 確かネットのサイトに評価が……おぉ! 

 前作を越える面白さと興奮かぁ……よし、今日ゲームを買いに行こう!

 折角だし井宮も誘って買い物に……って……。


「ちげーよ!!」


 思わず一人でツッコんでしまった。


「なに普通にハマってんだよ! 馬鹿じゃねぇーの!!」


 自分で言ってて悲しくなるだけだった。


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