第248話 海行くぞ14

「………」


「………」


 夜風の気持よい中、俺と高城の間に無言の沈黙。

 そこで無言に耐えられなかった俺は何かを言わなければと思い、俺は話題を探した。

 そうだ、昔家族ぐるみで言った海の話題だ。


「む、昔行った海覚えてるか? 小学生の頃」


「え? あ、う……うん……覚えてるよ」


 あの頃はまだ小学生、二人で砂浜に城を立てたのは良い思い出だ。

 そしてその後姉貴によってその白は崩壊した。

 あの頃の姉貴はかなり武闘派だったと思う。


「懐かしいよなぁ~もう5年以上前だぜ? あの頃は毎日楽しかったよなぁ」


「そうだね……毎日圭司君と遊んでたね……」


「そうだったな……」


「覚えてる? 私、あの頃はブーちゃんだったんだよ?」


「小学校の同級生が聞いたらびっくりすんぞ?」


「そんなに変わった?」


「あぁ、めちゃくちゃな。俺は昔の高城も良かったけど、今の高城はもっと良いと思うぜ、昔の弱弱しい感じが無くなって、なんか自信が付いた感じがして」


「……ありがとう」


「でも、なんでそんなに変わったんだ?」


「え……あ、えっと……」


 そう言うと高城は顔を赤くしながら話始める。


「す、好きな男の子に好きになって欲しくて頑張ったんだ……」


「へぇ~すごいなそいつ、そんなに好きだったのか?」


「うん……今も好きだよ」


「そうなのか? で、どうなんだよそいつとは?」


 初恋の人に好きな人が出来る。

 なんだか複雑な気分だが、彼女をここまで変えた人物だ、きっとすごく良いやつだろう。

 それに今の高城……いやぶーちゃんなら大丈夫だろう、誰が見ても可愛いし、性格も良い。

 完璧な美少女と言っても過言ではない彼女なら、きっと上手くいく。

 俺はそう思っていた。


「……多分、その人は私を意識なんてしてないよ」


「え? 本当か?」


 なんて奴だ、こんないい子からアプローチを無下にするなんて、馬に蹴られて死ね!

 てか、クラスの男子どころか学校中の男子を魅了している高城さんを意識しない男子なんているのか?

 どんな奴か一度会ってみたい気もする。

 なんてことを考えていると、高城が急に履いていたサンダルを脱いで海に足を入れた。


「うぅ~やっぱり夜の海は冷たいねぇ~」


「あんまり深いところいかない方が良いぞ? 暗くて危ないし」


 なんてことを言いながら俺は砂浜に腰を下ろした。

 少し離れた海岸では家族連れが花火をしていた。


「……ねぇ圭司君……私って可愛いかな?」


「え? いや、普通に可愛いよ、てか俺は昔からそう思ってたよ」


 俺がそう言うと高城は俺の方を真っすぐ見てきた。


「どうした?」


「……変わらないね……圭司君は」


「え?」


「ねぇ、私の好きな人……誰か聞きたい?」


「急にどうした? 本当になんか今日の高城変だぞ?」


「で、知りたい?」


 まぁ、気になるのは気になる。

 高城の魅力にも気が付かない鈍感男がどんな奴なのか見てみたいという気持ちもあった。

 だが高城はそれを俺に言っても良いのだろうか?

 あ、もしかして協力して欲しいとかか?

 そんなことを考えながら俺は高城に言った。


「誰なんだ?」


 そういうと高城は少し黙って口を開いた。


「今、私の目の前に居る人です……」


「え?」


 えっと……今高城の目の前に居る人?

 あれ?

 おかしいな、砂浜には俺達以外に人は居ないし……もしかして高城にしか見えない誰かが俺の後ろにいるのか??

 なんて疑問を浮かべながら考えていると、見かねた高城が俺に再びこう言ってきた。


「私は前橋圭司君が好きです」


「えっと前橋? どっかで聞いたことあるなぁ……うちの学校か? しかも圭司って俺と一緒のなま……あ」


 そこで俺は気が付いた。

 どうやら鈍感男は俺だったらしい。

 高城の顔は夜でもわかるくらい真っ赤だった。

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