第234話 この時にはもう……

「あってなに? ねぇ、あって言ったわよね?」


「いや問題ない、どうせ来月には仕事場が変わる」


「良いから言いなさい? また我が家を修羅場にしたいの?」


「待て、今日はお客さんも居るんだから……」


「そんなの関係ないわ、さぁ今度はどんな女なの?」


「いや、だから……」


 どうやら父さんは母さんの地雷を踏んでしまったらしい。

 こうなると母さんは全てを聞くまで父さんを問い詰め続ける。

 いつもは優しい母さんなのだが、父さんの女性関係に関しては敏感だ。


「何してんだか……」


「笑い事じゃないよ圭ちゃん! 圭ちゃんは一体誰が良いの?」


「え? いや……」


 しまった、母さんが父さんの方に行ってしまったから姉貴がフリーに!!


「知与さんは黙ってて貰えます? 圭司君! なんで井宮さんを部屋のしかもベッドの上に上げたんですか! あそこは私の定位置です!」


「いや、お前の定位置ではねぇよ……」


「圭ちゃん!」


「圭司君!」


「だ、だから別に俺は……」


 こっちはこっちで姉貴と高ノ宮が俺に詰め寄る。

 なんでこのメンバーで飯なんて食ってんだよ……。

 俺は井宮に視線で助けを求める。

 しかし……。


「……似た者親子ね」


 とか言いながらずっと飯食ってた。

 あいつ俺を見捨てやがった!

 その後、この地獄のような晩飯は机の料理が無くなることで終了した。


「どうもごちそうさまでした」


「美味しかったです」


「うふふ、それは良かったわ」


「しっしっ! さっさと帰りなさいよ!」


 流石に夜も遅くなり、高ノ宮と井宮は帰る事になった。

 高ノ宮はともかく、井宮は流石に帰りが遅いと親御さんが心配するだろうしな。


「またいつでも遊びに来てね」


「はい!」


「いや、もう一生来なくていいわ」


「あらあら、まったくこの子はお客様になんて失礼なことをいうのかしら?」


「いててて!! お、お母さん痛い! 痛い!!」


 二人に失礼な事を言った姉貴が母さんにこめかみをぐりぐりされる。

 あれって結構痛いんだよなぁ……。

 

「じゃ、じゃあ私達はこれで……」


「お邪魔しましたぁ~!」


 そう言って二人は家を後にした。

 さて、少し時間を置いて俺も行くか……。


「コンビニ行って来る」


「あら? 何か買い物?」


「まぁ、そんな感じ…」


 二人が出て行って少ししてから俺は家を出た。

 別にコンビニに行く用事はない。

 本当の目的は……。


「あ、おい井宮」


「え?」


 井宮を送り届けることだ。


「あんたどうしたの? 私何か忘れ物でもした?」


「いや、遅いから送ってく」


「え?」


 俺がそういうと井宮は何故かポカンとしていた。

 別に夜道が危険だから女の子を送るのは普通じゃないだろうか?

 まぁ、高ノ宮は隣だから心配ないと思ったし、それにこの事が姉貴や高ノ宮にバレるとまたややこしい事になるから、時間をずらして高ノ宮が家を入ったのを見計らって、コンビニに行くなんて嘘をついて井宮を追ってきたのだ。


「べ、別によかったのに……だって帰り道はずっと人気があるし、危ない場所もないし……」


「でも一応だ、夜になると変な奴が出るしな」


「へぇ~何? 心配してくれてんの?」


「まぁな、お前も女だし」


「そ、そう……あ、暑いわねぇ~やっぱり夏ね!」


「そうか? 今日は涼しい方だろ?」


「あ、暑いわよ!」


「何ムキになってんだよ?」


「べ、別にムキになんてなってないわよ……」


 そんなに言うほど暑いか?

 夜だし風もあるし、今は比較的涼しい方だと思うのだが?


「今日、楽しかったよ、サンキューな」


「なら良かったわ、私も楽しかった」


「また、一緒に行こうぜ、なんかお前と一緒だといつもより趣味を楽しめる気がする」


「それは趣味が合うからでしょ?」


「それはちが……いや、そうだな……」


 何となく俺はその時言おうとした言葉を途中でやめた。

 なんとなく、これを言ってはいけない気がしたのだ。


「そうでしょ? まぁ、また一緒に行きましょ、なんだったら秋にもイベントあるからお金溜めておきなさい」


「おう」


 その後、俺は井宮を家に送って自宅に帰った。

 次はクラスの奴らと海だ。

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