第228話 イベント行きます1


 井宮とのイベント日当日。

 俺は準備を整え、待ち合わせ場所のバス停に夏休みだというのに7時に到着していた。


「朝なのに暑いなぁ」


 バス停にはサラリーマンと思われる人たちが朝から列に並んでいた。

 大人になると一か月も休める休みなんてなくなるのだと思うと悲しくなってくる。

 

「社会人なりたくねぇな」


 汗を搔きながらそんなことを考えていると周囲からの視線を感じた。

 

「ねぇねぇ、あの子高校生かな?」


「イケメンよねぇ~、もしかして彼女とお出かけかしら?」


「あぁ~あ、私も仕事なんかしてないで彼氏と海行きたーい」


「何を言ってるのよ、あんたまず彼氏が居ないでしょ?」


「あ、そうだった……」


 人の顔を見てこそこそ話すのはやめて欲しい。

 人の視線に敏感になったのはいつからだろうか?

 恐らく小学生の頃からだったと思う。

 そもそもうちの家系は美形揃いだ。

 母さんと姉貴はもちろん、親父も息子の俺から見ても顔立ちは良い方だと思う。

 そんな家族から生まれてきて、周囲からもそんな目で見られるのだ嫌でも自分の顔が良いことくらい自覚できる。

 でも、俺はこの顔が嫌いだ。

 顔なんて良くても良いことなんて無いと思ってた。

 だから、髪を伸ばしわざと顔を隠した。

 そしたら誰も俺なんて見向きもしなくなった。

 人間なんてそんなものだ、見てくれの良い奴をみんなひいきする。

 最初からその人の中身を知ろうとする人なんてあまり居ない。

 うんざりだった。


「嫌な事思い出しちまった……」


 やめよう。

 今日は楽しいイベントの日だ。

 そうだ、楽しいことを考えよう。

 俺の軍資金は3万程。

 新しいゲームの先行販売もしているらしい、会場限定グッズも買いたい!

 いやぁ~なんだか楽しくなってきたぞ!

 てか、井宮の奴遅いな……あんだけ俺に送れるなって言ってた癖に……。

 俺がそんなことを考えていると、ようやく井宮がやって来た。


「お、お待たせ!」


「遅かったな? 寝坊か?」


「いやそう言うわけじゃないんだけどね」


「そうか? まぁバスまでまだ少し時間あるからな間に合って良かったよ」


「そ、そうね……」


 なんだ?

 なんか井宮の様子がおかしいぞ?

 なんだかよそよそしいと言うか……。


「そ、それにしても楽しみね……イベント」


「あぁそうだな! 新作ゲームを先行販売ってのは良いよなぁ~! 発売の一週間も前にゲームが出来るなんて最高だぜ!」


「そうよね! しかも限定グッズもたくさんあるのよ! 私絶対に抱き枕が欲しいの! それとキーホルダー全部とラバスト全部!」



 なんだ、いつも通りじゃないか。

 これなら心配いらなさそうだな。

 話しをしているうちにバスが着た。

 バスに揺られること30分、ようやくバス停に到着し歩くこと10分。


「マジか……」


「だから言ったでしょ」


 会場に到着するともう会場前に列が出来ていた。

 先頭の人は一体いつから並んでいたのだろう?

 見ただけで既に20人以上が並んでいるように見える。


「さ、私達も並ぶわよ!」


「お、おう」


 八月の始め、もちろんまだまだ暑いし今日は日差しが強い。

 なので……。


「お、お前が日傘を持って来いって言った意味わかったわ」


「でしょ……朝九時にもなると日差しが暑いのよ……」


「水筒っても邪魔になるかと思ったけど、今は持ってきて良かったと思ってるよ」


「持ってこないと脱水症状で死ぬのよ」


 流石は井宮。

 こういったイベントに慣れている。


「バックパックで来いって意味もわかった、肩掛けとかだったら傘持つの辛かったわ」


「でしょ? それに両手が空くのは色々便利なのよ」


 確かに両手が空くと並びながら色々出来る。

 というか、前の人は椅子にもなるリュックを使ってる人が結構居た。

 あれ良いなぁ、俺も買おうかな?

 そんなことを考えてしまうほど、並んでいる同志達は様々な暑さ対策などをしていた。

 

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