第227話 あいつの気持ちを俺は知っている



「じゃぁ当日はそんな感じで」


「あぁ、了解」


 母さんが来てから数時間後、打ち合わせを終えて井宮が帰ろうとしていた。

 話し込んでいたら遅くなってしまった。

 夕方になり多少外も涼しくなり始めていた。


「気を付けて帰れよ」


「分かってるわよ、アンタも当日遅れないでよね」


「分かってるよ」


 そう言って井宮を見送り、俺はドアを締めて自分の部屋に戻った。


「さて、母さんもまだ帰って来ないし、姉貴もまだ撮影だろうからな……ゆっくりゲームでもするか」


 なんて事を考えていると、窓の外に何かがコツコツ当たる音が聞こえた。


「………」


 何となく予想がつくので無視していたのだが、いつまでたっても音がやまないので俺はドアを開けて音の主に文句を言う。


「いい加減にしろ、さっきから人の家の窓にコツコツと! お前はキツツキか!」


「あ、圭司君やっと出てきてくれたぁ~!」


 俺の家の窓は隣のユマリの部屋の窓と向かい合う形になっている。

 部屋の窓にいたずらをするなんてこいつくらいしか居ない。


「圭司君、今度私と一緒に海とか行きません? 私のセクシーな水着姿見たいでしょ?」


「いや、全然」


 そう言って俺は窓を締める。

 外は暑いからな、長時間窓なんて開けてられるか。

 なんて事を考えていると、向かいのユマリが黒い笑みを浮かべながら習字で使う文鎮を持っている。

 窓を開けた。


「悪いが色々夏休みは予定があってだな……てかお前も受験だろ? 受験勉強しろ」


「ボッチの先輩に用事? まさか! 井宮さんと高城さんとかと一緒じゃないですよね!?」


 そうだけど、こいつにはそうじゃないと言っておいた方が良いかもしれない。

 本当の事を言うとなんか面倒そうだし。


「い、いや? あれだ、バイトとかするんだよ」


「あぁ、この前の執事喫茶ですか? 結構様になってましたもんね」


「あそこは辞めた」


 お前らが来るからな。

 それに元々短期のバイトだったし。


「それじゃぁ今度はどこのバイトですか?」


「言ったらお前来るだろ? 絶対に言わない」


「えぇ~何でですか~!」


「この前みたいに面倒な事になるからだよ……」


 ま、実際は井宮とイベント行ったり、クラスメイト達と海に行くだけなんだけど。

 こいつに話すと付いてくるとか行ってきそうだからな……。


「受験生は勉強しろ」


「ぶー……息抜きだって必要だもん」


 まぁ……だが、こいつとはこの前色々あったしなぁ。

 俺と一緒に居て楽しいなら、一日くらいはこいつと……。


「なぁ、ユマリ」


「はい?」


「おい、なんだその手に持ってる物は?」


「文鎮です」


「なんでまた文鎮持ってるんだ?」


「圭司君が私にかまってくれないのでイライラして」


「投げるなよ?」


「えぇ~投げませんよぉ~。直接行って圭司君の頭を叩きます」


「もっと悪いわ!」


 少しでも可哀想だと思った俺が馬鹿だった。

 そうだ、こいつはこういうやつだ……。

 ま、でも受験もあってストレスもあるだろうし。


「盆明け、お前暇な日あるか?」


「え?」


「一日お前に付き合ってやるよ、だから文鎮はしまえ」


「い、良いんですか?」


「あぁ、頭を叩かれてこれ以上不細工になりたくないしな」


「や、やたぁぁぁぁ!! じゃ、じゃぁ二人で夏祭りに行きましょう! 花火も上がるんです!」


「はいはい」


 一日付き合うって言っただけなのに、まさかここまで喜ぶとは……。

 好きな人と一緒に入れるってのはそんなに幸せなことなのかね?

 そう言えば……俺も高城、もといブーちゃんと一緒だと楽しくて嬉しくて、幸せだったかもしれない。

 でも、そんな相手を失った時、かなり辛いんだよな……。

 

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