第226話 母親と女友達を会わせると高確率で勘違いする

「さて、飯も食ったし……打ち合わせをするぞ」


「了解」


 俺がそう言うと井宮は鞄からタブレットを取り出し、当日のイベント情報を出してきた。


「会場は近くのバス停からだと30分くらいね」


「じゃぁ開場が10時からだから、9時頃のバスで行けば良いな」


「甘いわね、イベント初日は平日だけどかなりの混雑が予想されるわ! 最低でも一時間前に並ばないと!」


「え? そんな早くて大丈夫か?」


「甘いわよ! このイベントには大手のゲーム会社やコスプレイヤーまで来るのよ! 私達みたいなオタク達が集まるわけよ」


「でも、仕事がある人だって居るし、休んでまで来るのか?」


「社会人オタクは有休を使ってイベントに来るわ、あんまりアニメやゲームのイベントを舐めない方が良いわよ、今やオタクなんて10人居たら5人はそうなんだから」


「それはどうだろ……」


 何やら熱く語る井宮。

 まぁ、確かに夏の東京ビッ〇サイトで行われる即売会にはかなりの人が集まるらしいしな……大げさってわけじゃなさそうだ。


「まぁ、そこらへんは任せるよ、こういったイベントはお前の方が経験多いだろ?」


「そうね、結構行ってたし」


「良く一人で行けるな、怖くないか?」


「別に一回行けば慣れるわよ」


「まぁ、お前はリア充オタクだからな」


「何よそれ?」


「リア充でオタクの事」


「アンタもそうでしょうが」


「アホか、そんな訳ないだろ? 俺は……」


 俺は……今はボッチなのか?

 英司と最上とバイトをし、池内とクラスメイトのために海旅行を企画し、そして井宮と二人でイベントに参加しようとしている……。

 ずっと一人で居ようとしてきた。

 それが楽だから……。

 なのに今はどうだ?

 

「ちょっと、どうしたの?」


「え? あ、あぁ……いや別に」


 考えるのはやめよう。

 面倒だ。

 そんな事を考えていると突然リビングのドアが開いた。


「はぁ~涼しいわぁ~やっぱり外は暑くてダメね」


「母さん? 今日は夕方まで帰らないんじゃなかったのか?」


「暑くて早めに帰って来たのよぉ~、一緒に行った友達も急に予定が出きて帰っちゃったしねぇ~って……あら?」


 そこでようやく母さんは井宮の存在に気が付いた。

 うーん、姉貴が帰って来るよりはマシだけど、これはこれで面倒だな。

 絶対に『なになに? 圭司の彼女?』とかわくわくしながら聞いてきそうだ。


「あ、お……お邪魔してます。私圭司君と同じクラスの……」


「え!? あ、ご…ごめんなさい! もしかしてお邪魔だった? いやねぇ~気が利かなくて! 圭司? お母さん後三時間出掛けてくるから、それとちゃんとゴムはするのよ!」


 残念ながら母さんの想像は俺の遥か上をいっていたらしい。

 てか、そんな大声でゴムとか言うな!

 気まずくなるだろ!


「あ、あのお母さんわ、私達はそういう関係では……」


「あ、大丈夫大丈夫! 私も昔はお義母さんにそう言ってたから! それじゃぁねぇ~!」


 そう言って母さんは井宮の話しも良く聞かずに再び外に出掛けて行った。

 特大の爆弾落として行きやがって……この気まずい雰囲気どうするんだよ……。


「悪い、うちの母親が……」


「べ、別に大丈夫よ。そ、それにしてもかなり若いお母さんね」


「まぁな……」


 やばいなぁ……母さんは変な事を言うから井宮が変に俺を意識してるじゃないか……。


「言っとくがお前に手を出すきなんかサラサラないから安心しろ」


 こう言えばこいつも安心するだろう。

 そう思って居たのだが。


「……あっそ」


 あれ?

 なんか不機嫌になってないか?


「な、なんだよ? なんか機嫌悪くないか?」


「別に……」


 そう言いながら頬を膨らませる井宮。

 なんだ?

 一体なんで起こってるんだ?

 やっぱり母さんの勘違いに怒ってるのか?




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