第223話 友達と一緒に居る時に親とは会いたくない



「あぁ、疲れた」


「何でそんな疲れてんだよ?」


「ちょっと今日の客の癖が強くてな」


 無事バイトを終えた俺は最上と英司と共に帰路についていた。

 まさかバイト先に知り合いがあんなに来るなんて思わなかった。

 あの後俺は必殺の「休憩入ります」でなんとか知り合いの魔の手から逃げだすことに成功した。

 まぁ、店長から怒られたけど……。


「でもよかった、これで夏休みの軍資金が手に入った」


「そうだな、海の旅行費もこれで楽勝だぜ」


「僕も良い経験になったよ」


 夕方なのにまだ暑い。

 早く自分の部屋に帰ってエアコンをガンガンに効かせてぐーたらしたいものだ。

 そんな事を考えながら家に帰ろうとしていると何やら道行く人達の視線がとある女性に向けられていた。


「ん? 美人の気配がする」


「なんだよ急に……」


「もしかしてあの人かい?」


 英司の馬鹿な発言に最上が視線の先の女性を指さして答えた。

 しかし、あの後ろ姿……見覚えがあるような?


「おぉ! 綺麗なうなじにすらっと長い手足! あの人だ!」


「確かに後ろ姿だけ見れば美人な感じがするが……」


「いや、あの後ろ姿は間違いなく美人だね、皆見てるし! 圭司もそう思うだろ?」


「いや……なんかあの後ろ姿見覚えが……」


 なんて事を話しているとその人物は俺達の話し声に気が付いたのか、こちらを振り向いた。

 そしてその顔を見た瞬間、俺はやっぱりと思いため息を吐いてしまった。

 脇の二人は女性に夢中のようだ。

 確かに第三者から見れば綺麗だろう、俺もその人を知らなかったらそう感じるだろう。

 俺の母親でなければ……。


「あら、圭司。こんなところで何やってるの?」


「お袋……」


「はぁ!?」


「え? お、お袋って……親友の母親なのか!?」


「まぁな」


 俺の母親、前橋冴子(まえはし さえこ)はもう40過ぎだというのにかなり若く見える。

 近所では我が家の長女だと思われているらしい。

 そんな母の職業はデザイナーだ。

 毎日毎日仕事に追われている上に休みも不定期なのであまり家に居ることはない。

 しかし、なんでこんな所にいるのだろうか?


「なにやってんだよ、仕事は?」


「それがねぇ、少しは休みなさいってパパから怒られちゃって。折角だから早めに夏休みを取ることにしたのよ」


「あっそ、それで今から家に帰ろうとしてたと?」


「えぇ、そうなのよ、でも道行く人に見られて……お母さん何か変かしら?」


「母さんは存在自体が変だよ。老いるって言葉知ってる?」


「どういうこと? それよりもその二人はお友達?」


 どうやら母さんは俺よりも俺と一緒にいる英司と最上に興味津々のようだ。

 まぁ、そうか。

 俺が友達と一緒に居る姿なんて久しく見てないもんな。


「は、はい! そうです! 圭司君とは大親友で……」


「たまに死ねとか行って来るけどな」


「互いに助けあっています!」


「お前が足引っ張てるだろうが」


「あぁ!? お前はちょっと黙ってろ! てか聞いてないぞ! お前のお袋さんがこんな美人だったなんて!」


 美人なら誰でも良いのかよ……母さんもう40過ぎのババアだぞ。


「初めましてお母様、自分は最上吉秋と申します。息子さんとは無二の親友でして」


「おい、いつ俺がお前を親友と認めた?」


「まぁ二人ともこの子と仲良くしてくれてありがとう。この子友達付き合いが苦手でね、母親としては心配だったのよぉ~」


「余計なお世話だ」


「確かに圭司は友人付き合いが苦手だな」


「そうか? いや、しかし言われて見ればそうかもしれない。親友は確かにカリスマ性はあるが、僕たち以外に近しい友人が少ない気が……」


「お前らが近しい友人ってのも悲しいけどな」


 まさかこんな道端で母親と出会うなんて最悪だ。

 しかもよりによってこの二人と一緒に時に……。



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