第222話 帰る
「聞いてくれ英司! 井宮と高城が酷いんだ!」
「あっそ、いいから働け」
「聞けよ! あいつら俺がこんな恰好して働いてるから馬鹿にしやがるんだ!」
「あぁー大変だねぇー、良いからオーダー教えろ」
「ちゃんと聞けよ! あぁもうだめだ、もう早退する」
「どんだけメンタル弱いんだ……今日で最終日なんだからちゃんとしろ!」
「しかしだなぁ……」
「仕事だろ! 客として来た以上井宮のと高城も客だ。ちゃんと接客しろ」
「まさか英司がまともな事を言うなんて……」
「お前一体俺をなんだと思ってんだよ」
まさか英司に説教されるとは……。
まぁ、俺にも業務がある訳で、別にあの二人のテーブルにずっと居なきゃいけない訳じゃない。
それにバイトは今日で最後だ。
もうクラスメイトが来ることなんてないだろうし、我慢して働こう。
「お帰りなさいませお嬢様」
俺は気を取り直して再び接客に戻る。
そろそろ店も混んでくる時間だ、気を取り直して接客しよう。
なんて事を思ったのだが……。
「あ! 圭司君じゃないですか!!」
「………」
「え? この人ユマリの知り合い?」
「マジで! 紹介してよ!」
高ノ宮が友達と一緒に店に来てしまった。
「よし、帰ろう」
「いやいや! 親友何を言ってるんだ! 業務中だぞ!」
「離せ最上、俺は帰る、これ以上精神的にダメージを食らうのは避けたい」
「何を言ってるんだい?」
「とにかく帰る、そうしないと俺は恐らくもう一生に労働を出来なくなる」
「そこまでなのか親友?」
帰ろうとする俺を最上は止めてきた。
まさか高ノ宮まで来るなんて予想外だ。
あの高ノ宮のことだ、絶対に俺を弄って遊ぶに決まってる。
そんな事をされたら接客どころではない。
「あの圭司君? 早く案内してくれませんか?」
いつまで経っても席に案内しないので、高ノ宮が俺にそう言ってきた。
しかも満面の笑みで……これは絶対楽しんでやがる。
「最上、変わってくれ」
「えぇ~私は圭司君に接客されたいですぅ~」
この野郎!
わざわざ指名しやがって!
「そう言ってるが……親友どうする?」
「俺はこいつの顔を見るのが精神的にキツイ、最上頼んだぞ」
「私の顔面は一体なんなんですか!?」
そんなことを店の入口でしていたせいで騒ぎを聞きつけた店長が店の奥から俺に視線で圧を掛けてきた。
仕方ない、これは仕事だ。
俺は金を貰っている。
こいつを接客するのは金のためだ。
よし! 吹っ切った!
「こ、こちらです。お嬢様方……」
俺は高ノ宮を含めた三人を席に案内しメニューを渡した。
「ご注文がお決まりになりましたら、そちらのボタンでお呼び下さい。それでは失礼いたします」
よし、後は最上に任せよう。
俺は他の客の接客を……。
「あ、圭司君大丈夫です、メニュー決まりました」
「げっ……」
「いや、げってなんですか!」
いやメニュー決めるの早すぎだろ!
くそっ!
あの顔、絶対に俺のこの恰好を見て楽しんでやがる。
俺から顔を反らさねぇし、ずっと見てくるし……。
「えっと、じゃぁとりあえずアイスティー三つで」
「はい、それでは少々お待ちください」
「えぇ~なんか冷たくないですかぁ? 執事の癖にぃ~」
面倒くせぇなこの客。
ここで素で応えると店の奥で俺を視線で威圧してる店長からお怒りを受けそうだし……。
冷静に接客をして後で英司に愚痴ろう。
「も、申し訳ございませんお嬢様、以後気を付けさせて頂きます」
「ぷっ! け、圭司君が……お、お嬢様って……」
さっさと帰れよ!
はぁ……流石にもう誰も来ないよな?
次、誰か知り合いが来たらマジで帰ろう。
そう思っているとまたしても店にお客さんが入って来た。
「お帰りなさいませお嬢さ……」
「あぁ! やっぱり圭司君だ!」
「まさかネットの情報が本当だったなんて……全く、お金が欲しいなら事務所に相談しなさい!」
川宮さんと岡島さんが来た。
「よし……帰ろう」
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