第220話 バイト始めます



「はい、それじゃぁ元気良くいってみよう!」


「「お帰りなさいませお嬢様」」


 突然だが俺は今人生初のアルバイトに来ている。

 英司が見つけてきたバイトで正直少し怪しい。

 なんでもメイド喫茶の男番で執事カフェというらしいのだが面接の時点でおかしかった。

 バイトに誘われたのは俺と最上の二人、英司は元々この店の店長とは知り合いらしく夏休みに入る前から厨房で働き始めていたらしい。

 面接に来た俺と最上を向かえたのは眼鏡を掛けた女性だった。


「えっと君たちが英司君の友達ね話しは聞いているわ」


「はい」


「よろしくお願いします」


「採用」


「「え?」」


「採用よ、あなた達はこの仕事に必要な様子を十分兼ね備えているわ」


「一体その要素ってなんなんすか?」


「最低限の顔面偏差値よ!」


 顔で採用されてしまった。

 全く、俺を雇うなんてどうかしてるな……。

 しかし夏のイベント資金と旅行のためだ仕方ない。

 ここの時給は高いしバイトは4日間だけだ。

 こんな良いバイトは他にない。


「それで、誘ってきたお前はなんで厨房なんだよ。俺もそっちが良いんだが?」


「何言ってるんだ馬鹿! お前みたいな無駄に顔が良い奴はホールで客を集めろ!」


「なんで泣いてるんだ?」


「別に……」


「悲しい事があったのだろう、そっとしておいてやろう」


「くそっ……こんな所で顔面偏差値の差を思い知らされるとは」


 後から聞いた話しだが、英司はこの店の顔面偏差値の基準に達していなかったため、厨房係になったらしい。

 そんなわけで執事喫茶で働き始めた俺達は一日目、二日目と難なく業務をこなした。

 まぁアルバイトと言っても手伝いの延長のような物で、俺たちがやるのは配膳と注文を聞くくらいだから簡単だ。


「てか、最上はバイトなんかしなくても小遣いかなり貰えんじゃねぇの?」


「何を言う! 自分で遊ぶお金は自分で稼ぐ、それが我が家のルールだ!」


「そうか、ちなみにお前……注文間違えるの三回目だからな、しっかりやれ」


「う……す、すまない。お嬢様方が話し掛けてくるから途惑ってしまって……」


「んなもん適当に流せよ」


「しかし、失礼だろ? 折角店に来て話し掛けてくれたのだ! 店長も言っていただろ? お客との会話も業務のうちだと」


「まぁ、そうだが適当に流さないとしんどくなるぞ? どうせお前の顔しか見てねぇんだよあいつら……」


「それはそうだろ? そういう店だ」


「まぁそうなんだが……俺はそう言う奴がどうにも好きになれなくてな……」


「確かに君の接客は酷いもんだ」


 俺の接客は基本的にあまり客と会話をしない。

 

「いらっしゃいませお嬢様」


「あ、あの……アイスコーヒーを二つ……」


「かしこまりました」


「あ、あの! 執事さんは高校生なんですか?」


「すみません、個人情報なので」


「じゃ、じゃぁ……あの……趣味とかは……」


「お嬢様、業務がございますので失礼します」


「は、はい!!」


「すいません!」


 こんな感じで自分の情報は一切お客さんに公開しない。

 最初は店長にもっと明るく、もっとお客さんに寄り添ってと言われたが、二日目以降は言わなくなった。

 なんでだろうか?


「はぁ~前橋君カッコいい~」


「四日間限定の執事なんだって、マジで良い~最上君もカッコいいけど、あのクールな感じが良いのよねぇ~」


 しかもここ二日間でお客さんが二倍に増えたらしく、毎日大変だ。

 客と触れ合うことのない英司の居る厨房が羨ましい。


「くそっ! 執事カフェで綺麗なお姉様と知り合ってひと夏の経験をするという俺の野望が!!」


「いや、無理だろ」


 そもそも店長から客との連絡先の交換禁止されてるし。


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