第218話 過去は唐突に夢に出る

「部屋を掃除した後で良かったわ、ほらベッドで少し寝て良いわよ。私は買ってきたゲームでもやってるから」


「は、はぁ……本当に何もしませんよね?」


「大丈夫よ、知らぬが仏って言葉があるでしょ?」


「その言葉からは不安しか感じないんですけど……」


 そんな事を言いつつも俺は眠気に勝てず、遠慮なく川宮さんのベッドの上に寝頃がり、直ぐに眠りに落ちて行った。

 女性のベッドというのはなんでこうも良い匂いがするのだろうか?

 自分のベッドよりも心地良く感じる。


「ゆっくりおやすみ……」


 最後に聞こえたのは川宮さんのそんな言葉だった。





「ねぇ、前橋君!」


「ちょっと! 前橋君は私と遊ぶの!」


「違うわよ! 私よ!」


 あぁ、これ夢だな。

 昔の夢だ。

 俺が一番思い出したくない昔の夢だ。

 小学生だったあの頃の一番見たくない夢だ……。


「来るなよ。お前は女子とでも遊んでろよ」


「そうだよ、お前なんか友達じゃねぇよ」


「どっか行けよ!」


 俺は何もしてないのに、男子からは疎まれ女子からは執着された。

 あぁ、分かってるよ。

 あの時からずっと、俺の顔が普通の人よりも整ってるなんて。

 知ってるよ、自分がモテることなんて……。

 でも、自分でそれを否定しないとまたあの頃みたいになる。

 だから俺は自分の顔が大嫌いだ。

 女子からは別に欲しくもない好意を抱かれ、男子からは疎まれる。

 女子は俺の顔が好きなだけ、男子は女子に人気の俺を羨んで生意気だと俺を貶めようとする。

 うんざりだ。

 もう嫌だ。

 誰とも関わりたくない。

 でも……俺はある日、関わっちまった……。


「なぁ、どうやったらモテるかな?」


「知るかよ」


 俺がモテると知っていても俺を貶めようとしない、俺を本気で心配してくれる本当の友人と……。


「てか、お前高校でもボッチキャラ続ける気か? 俺以外にも友達作ろうぜ」


「作る気なんてない、みんな俺の外見しか見ないからな」


「うわぁー出たよ、俺はモテるから発言。言っておくけどな! お前は顔が良いだけで性格はそこまで良くねぇからな! 拗らせやがって! 少しは他人をだな……」


 外見しか見ない他の奴らと違い、そいつは俺の内面をしっかり見ていた。

 

「え? 千膳高校?」


「あぁ、お前みたいなキャラの濃い奴にピッタリの学校だ、一緒に受けようぜ」


「俺は良いけど、お前の成績だと厳しいだろ」


「マジで!?」


 そいつに……英司に誘われて来たのがこの学校だった。

 最初は期待なんかしてなかった。

 どうせ中学の延長だろうと俺はボッチを続けた。

 なのに、今じゃ友人が出来て、嫌いだった顔をクラスの為に使った。

 変な奴らだ、クラスの奴らは全員……。

 でも、あいつらは俺を顔で判断しない。

 そんなのわかり始めてる……。

 なのに……。





「ん……」


 体が重たい、それに俺の部屋じゃない。

 あぁ、そうか川宮さんの家のベッドで寝てたんだった。

 俺は上半身を起して周りを確認する。

 ベッドの脇にはゲームを持ったまま座って寝ている川宮さんの姿があった。

 恐らくゲームをしながらそのまま寝落ちしたのだろう。


「嫌な夢だったなぁ……」


 俺はそう呟いた後にあ首をしベッドから起き上がった。

 時刻はもう16時を過ぎていた。

 夏だから日は高く、まだ外は昼間のように明るい。

 起きたは良いがどうしたものだろうか?

 寝ている川宮さんを起すのもなんだか可哀想だし、かと言って二度寝をするにももう眠くない。

 このまま川宮さんが起きるのを待つか?

 そんな事をベッドで考えていると川宮さんがピクリと動いた。


「ん……はい……すみませ……」


 何やら寝言を言っている。

 きっと何か夢でも見ているのだろう。


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