第218話 過去は唐突に夢に出る
「部屋を掃除した後で良かったわ、ほらベッドで少し寝て良いわよ。私は買ってきたゲームでもやってるから」
「は、はぁ……本当に何もしませんよね?」
「大丈夫よ、知らぬが仏って言葉があるでしょ?」
「その言葉からは不安しか感じないんですけど……」
そんな事を言いつつも俺は眠気に勝てず、遠慮なく川宮さんのベッドの上に寝頃がり、直ぐに眠りに落ちて行った。
女性のベッドというのはなんでこうも良い匂いがするのだろうか?
自分のベッドよりも心地良く感じる。
「ゆっくりおやすみ……」
最後に聞こえたのは川宮さんのそんな言葉だった。
*
「ねぇ、前橋君!」
「ちょっと! 前橋君は私と遊ぶの!」
「違うわよ! 私よ!」
あぁ、これ夢だな。
昔の夢だ。
俺が一番思い出したくない昔の夢だ。
小学生だったあの頃の一番見たくない夢だ……。
「来るなよ。お前は女子とでも遊んでろよ」
「そうだよ、お前なんか友達じゃねぇよ」
「どっか行けよ!」
俺は何もしてないのに、男子からは疎まれ女子からは執着された。
あぁ、分かってるよ。
あの時からずっと、俺の顔が普通の人よりも整ってるなんて。
知ってるよ、自分がモテることなんて……。
でも、自分でそれを否定しないとまたあの頃みたいになる。
だから俺は自分の顔が大嫌いだ。
女子からは別に欲しくもない好意を抱かれ、男子からは疎まれる。
女子は俺の顔が好きなだけ、男子は女子に人気の俺を羨んで生意気だと俺を貶めようとする。
うんざりだ。
もう嫌だ。
誰とも関わりたくない。
でも……俺はある日、関わっちまった……。
「なぁ、どうやったらモテるかな?」
「知るかよ」
俺がモテると知っていても俺を貶めようとしない、俺を本気で心配してくれる本当の友人と……。
「てか、お前高校でもボッチキャラ続ける気か? 俺以外にも友達作ろうぜ」
「作る気なんてない、みんな俺の外見しか見ないからな」
「うわぁー出たよ、俺はモテるから発言。言っておくけどな! お前は顔が良いだけで性格はそこまで良くねぇからな! 拗らせやがって! 少しは他人をだな……」
外見しか見ない他の奴らと違い、そいつは俺の内面をしっかり見ていた。
「え? 千膳高校?」
「あぁ、お前みたいなキャラの濃い奴にピッタリの学校だ、一緒に受けようぜ」
「俺は良いけど、お前の成績だと厳しいだろ」
「マジで!?」
そいつに……英司に誘われて来たのがこの学校だった。
最初は期待なんかしてなかった。
どうせ中学の延長だろうと俺はボッチを続けた。
なのに、今じゃ友人が出来て、嫌いだった顔をクラスの為に使った。
変な奴らだ、クラスの奴らは全員……。
でも、あいつらは俺を顔で判断しない。
そんなのわかり始めてる……。
なのに……。
*
「ん……」
体が重たい、それに俺の部屋じゃない。
あぁ、そうか川宮さんの家のベッドで寝てたんだった。
俺は上半身を起して周りを確認する。
ベッドの脇にはゲームを持ったまま座って寝ている川宮さんの姿があった。
恐らくゲームをしながらそのまま寝落ちしたのだろう。
「嫌な夢だったなぁ……」
俺はそう呟いた後にあ首をしベッドから起き上がった。
時刻はもう16時を過ぎていた。
夏だから日は高く、まだ外は昼間のように明るい。
起きたは良いがどうしたものだろうか?
寝ている川宮さんを起すのもなんだか可哀想だし、かと言って二度寝をするにももう眠くない。
このまま川宮さんが起きるのを待つか?
そんな事をベッドで考えていると川宮さんがピクリと動いた。
「ん……はい……すみませ……」
何やら寝言を言っている。
きっと何か夢でも見ているのだろう。
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