第212話 結果発表


 テストの日当日、教室は殺伐とした雰囲気だった。

 みんな噛り付くように教科書やノートを見ていた。 

 最後の悪あがきだろう。

 特に男子は血走った目で教科書を熟読していた。


「頑張れお前たち! 赤点さえ回避すれば最高の夏休みが待っている!」


「白い砂浜!」


「弾ける水しぶき!」


「うぉぉぉ!! 絶対に赤点は回避するぞ!」


「「「うぉぉぉぉ!!」」」


 なんだかかなり張り切って頑張っていた。

 そして井宮はというと……。


「………」


 同じように教科書と睨めっこしていた。

 やれることはやったし、井宮も頑張っていた。

 大丈夫だとは思うが……。


「おい、あんまり力身過ぎるなよ」


「わ、分かってるわよ……」


 大分緊張してるみたいだな……。

 こうして様々な思惑が渦巻く中テストが始まった。

 意外と大丈夫そうだな、これならいつも通りの点数が取れそうだな。

 まぁ、この調子なら赤点はないだろう。

 それに井宮に教えた所も出てるし、少なくともこの教科での赤点は……。


「………」


 あれ?

 なんか井宮メチャクチャ悩んでないか?

 大丈夫かあれ?

 いや、ちゃんとやったところ出てるし大丈夫だろ?

 あれだよな?

 一問分からない問題があって悩んでるだけだよな?

 そんな事を考えていたら、一教科目が終了した。

 俺は念のため井宮にどうだったかを聞きに行ったが……。


「た、多分大丈夫……」


「多分って……やったところばっかり出てたぞ?」


 なんだか不安になって来たな。

 この調子で次の教科は大丈夫か?

 なんて心配は見事に的中した。

 毎回心配になって隣の井宮を見ると頭を抱えて悩んでいるのだ。

 しかも、テストを重ねる事にその顔色はドンドン悪くなっている。


「もうだめ……何が正解で何が間違いか分からない……」


「おい、大丈夫か?」


「赤点かも……」


 大分精神的にも来ている様子だった。

 こいつ本番に弱いタイプか?

 

「まぁテストは明日もある、くよくよしてないで明日の教科に備えろよ」


「そ、そうね」


 しかし、翌日も井宮はなんだか苦しみながらテストを受けていた。

 普段使わない頭を使っているからなのか、それとも問題が分からなすぎるのか、それは分からないがとりあえず言えることはかなり辛そうだということだけだ。


「はぁ……」


「大丈夫? 椿ちゃん?」


「え、えぇ……なんとか……」


 二日目が終った時点でもう全ての力を出し切った感じでいたが、テストは明日もある。


「おい、お前やり切った顔してるけど、明日もテストあんだからな?」


「わ、わかってるわよ」


「おまえ、そのまま死なないよな?」


 勉強ごときでなんでここまで体力減るんだよ。

 とは言っても終ってしまえばあとは結果を待つだけ。

 最終日の放課後の井宮のテンションはかなり高かった。


「終ったぁぁぁぁ!! さぁ、早く帰ってログインするわよ!」


「はいはい」


 結果はどうあれ勉強という呪縛から抜け出した高揚感で井宮はハイになっていた。

 結局その日は夜中の三時までゲームに付き合わされ、翌日は二人で欠伸をしながら登校した。

 そして、運命の結果発表がやって来た。


「ま、こんなもんか」


「圭司、お前は相変らず成績良いなぁ」


「英司、お前はどうだったんだ?」


「なんとか赤点回避だぜ!」


「全部ギリギリじゃねぇかよ」


「うるせぇ! これで夏は海で女子の水着を見まくりじゃーい!」


 こいつの原動力って安いなぁ……。

 テストの結果が帰って来た日、クラス内は騒がしかった。

 成績が伸びて喜ぶ者、逆に成績が落ちて悲しむ者、様々だったが今回赤点を取った男子の悔しみようが半端なかった。


「くそぉぉぉぉ!! 俺は俺はなぜ! なぜこの選択をAと書いてしまったんだぁぁぁぁ!」


「あと一点! あと一点だったのに!」


「終った……俺の青春終った……」


 そんなに女子の水着が見たいかね?


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