第196話 あいつとの関係

*



 昔父さんが言ってたな、女は急に怒り始めるから気をつけろって。

 女心を理解しないと簡単に女の怒りを買うと……。

 昔は良く理解出来なかったけど、今なら理解出来る。

 確かに女は急に怒り始めるし、なんで怒ってるのか理解出来ない。

 現在の俺の状況がまさにそれだ。


「あ、あの……なんで怒ってるんだ?」


「別に」


「いや、怒ってるじゃん」


「怒ってません」


 いや、明らかに怒っている。

 さっきから眉間にしわが寄ってるし、一切こちらを見ようとしない。


「それで、なんで黙ってたの?」


「だ、だから事情が事情で!」


「ちゃんと説明すれば私は納得するわよ」


 本当かよ?

 なんて事を考えながら俺はため息を吐き、早く最上と城崎が来ないかと考えていた。

 さっきまで仲良く話していたのに、まさかあんなことで井宮の怒りを買ってしまうとは。

 てか、別にこいつに関係なくね?


「だから、あいつに告白されて一週間お試しで付き合うことになったんだよ」


「なんで私にそれを相談してくれないのよ」


「お前に関係無いだろ? これは俺とあいつの問題だ」


「……あっそ」


 別に間違った事を言ったつもりはない。

 これはと俺と高ノ宮の問題だ。

 他人に何かを言われて意見を変えるような事をしたくない。

 だってそれは告白してきた高ノ宮に失礼だと思ったからだ。

 他人の意見で答えを変えるのは、俺に告白してきた高ノ宮に失礼だ。

 ギスギスした雰囲気の俺と井宮。

 そんな俺達の空気を切り裂くかのように、テンションの高い最上がやってきた。


「やぁ二人とも! 元気かい? 最近はより一層暑く……ん? なんだこの空気は?」


 俺が聞きたいよ。

 流石の最上も俺と井宮のこのギスギスした空気には気が付いたらしい。

 

「どうしたんだ二人とも? いつもは仲の良い君たちが……」


「別になんでも無いわ」


「悪いな最上、俺は今日は帰るわ」


「え? どうしたんだ?」


 俺はそう言って席を立ちファミレスを出ようとする。

 すると最上が俺を引き留めた。


「どうしたんだ? 急にそんな」


「悪い、ちょっと井宮と揉めちまって……悪いんだけど、井宮に勉強を教えて貰えるか?」


「それは良いけど……どうしたんだ?」


「……まぁ色々だよ」


「そうか、何かあったら相談してくれ、力になれるかもしれない」


 前は少し変な残念イケメンだと思ったけど……。

 こいつ中身は本当に良い奴だな。


「悪いな」


「任せろ親友!」


 親友ではない。

 俺はそのまま、井宮から逃げるように店を出た。

 あんな空気の中で勉強しても集中できない、それにお互い気まずいだけだ。


「やっちまったなぁ……」


 友人関係というのは面倒だ。

 こういうちょっとしたことで喧嘩をする。

 そして、面倒な事になる。

 それが嫌で一人になったはずなのにな……。


「こういう時ってどうすりゃ良いんだろ……」


 相手が怒っている意味も良くわからない。

 どう謝って良いかもわからない。

 世の中の人達は友人とどうやって仲直りをするのだろうか?

 というか、俺は井宮と仲直りしたいのか?

 仲直りしたところでまた喧嘩をする、そんな面倒な関係これを機に終わりにするべきじゃないのか?

 

「………そうじゃないだろ俺……」


 気が付くと俺は一人でそんな事を呟いていた。

 俺はもう昔と自分とは違うんだと、この時に理解した。

 入学して数カ月、井宮と一緒で楽しかったことが何度もあった。

 決して一人では出来なかった事もあいつのおかげで出来た。

 あいつがあの日俺に友達になってくれと言ってくれたから、俺は変われた。

 変われたから俺は今のクラスでも上手くやれているのかもしれない。

 そして、俺は……あいつとの関係をこんな事で終わりにしたくない。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る