第194話 私とあいつの日常
*
私の好き人はモテる。
でも自分がモテることを自覚していない。
あいつは鏡を見たことがあるのだろうか?
「あの子のこと好きなの?」
「はい?」
この前突然現れた彼の後輩はすごく可愛い美少女だった。
金髪に赤い瞳、何この子お人形?
思わずそんな事を思ってしまった。
私と違って素直で可愛い女の子の後輩。
柄にもなく、自分が嫉妬しているんだと私はその時始めて思った。
「いや、好きっていうかなんていうか……」
「どうなのよ」
「あいつは妹みたいな感じで……」
嘘は言ってないと思うけど、目を反らしたって事はあの子と何かあったのね。
そう言えば昔、ゲームのチャットでも仲の良い学校の後輩の話しがちょくちょく出てきたわね。
あの後輩っていうのがあの子だったのね。
「妹ね、あっちはそんな感じじゃないみたいだけど?」
「ま、まぁそうだな……」
あ、また目を反らした。
これは何かあったわね。
しかも結構最近。
女の勘がそう言ってる気がする。
「あっそ、まぁ私には関係ないから別に良いけど」
嘘だ。
本当は関係大ありだ。
だって好きな人の回りにまた女の子が増えるのよ?
しかも美少女!
そんなの気にならないわけないし、何だったら私も積極的にアプローチを始めないと行けない。
だけど、私はまだ一歩踏み出す勇気が持てない。
こいつが好きという気持ちはあの日助けて貰った日から変わっていない。
でも、この関係が好きだから、告白したらこの関係が壊れてしまいそうで怖いから。
私はいつまでも一歩を踏み出せない。
「じゃぁ、私はもう帰るから」
本当は帰ろうなんて思っていない。
もっとこいつと話しをしたい。
悩んでいるなら力にもなりたい。
でも、なんでだろう。
なんで私は自分からそれが言えないのだろうか?
恥ずかしいから?
好意を悟られるのが怖いから?
好きだとバレるのが怖いから?
きっと全部正解なんだと思う。
私は鞄に荷物を詰めながら、彼が何か声を掛けて来ないかを期待していた。
もしかしたら、ゲームの誘いとかがあるかもしれない。
そんな期待を私がしていると……。
「あ、井宮」
本当に彼が声を掛けてきた。
私は嬉しくて仕方なかった。
声を掛けられただけでこんな気持ちになるなんて、恋ってすごい。
私はこの気持ちがバレないように平静を装いながら彼に尋ねる。
「何?」
ゲームのお誘い?
それとも一緒に帰ろうとか言って来る?
彼が話し掛けてくる時はこの二つのどちらかだ。
正直どっちでも嬉しい。
だって、ゲームの時と帰る時だけは彼を独り占めに出来るから。
「勉強会するから帰るなよ?」
「………」
期待してたのと違った。
いや、確かに私がお願いしたけど……。
「どうした?」
「……別に」
「そうか? じゃぁ初白と最上にも連絡しておくから、一緒にファミレスで待ってようぜ」
「わかったわ」
この鈍感男は私の気持ちなんて一生気が付かないんじゃないかしら?
まぁでも、一緒に勉強出来るのは良いか。
私は彼と一緒にファミレスに向かった。
少しの間だけど二人きりになれるのは嬉しい。
「テスト終ったらゲーム三昧だな」
「夏は新作多いわよね、イベントも多いし」
「ゲーマーには悩ましい時期だぜ」
「お金も相当消えそうね」
「あぁ、だから俺は夏休みに短期のバイトを考えている」
「マジ? アンタがバイト? 出来るの?」
「失礼な、俺だってバイトくらい出来る」
「労働はクソとか言ってるタイプでしょ?アンタって」
「まぁ、そうだな」
「認めるのね……」
「だが、イベントに行く資金も欲しいからな」
「どんなバイトが良いのよ?」
「高時給で楽で早く終るバイト」
「そんな都合の良いバイトあるわけないでしょ……」
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