第192話 モテるやつら

「そうか?」


「あぁ、昔のお前なら目の前の問題から逃げてたよ」


「……実際逃げたしな」


「あぁ、その話を聞いた時はぶっ殺そうと思ったけどな」


「実際殴っただろうが」


 まぁ、気持ちはわかるし、その時は俺が問題から逃げた罰なのだと思った。

 

「まぁな、モテるお前が悪い」


「別にモテねぇよ」


「……いや、そろそろ自覚しろよ」


 自覚している。

 俺はモテない。

 不細工だし、性格もひねくれているし、何一つ良いところなんてない。

 でも、そんな俺を好きでいてくれる人が二人もいると思うと……なんだか考え方も変わってくる。

 もしかしたら俺って、多少はまともなのか?

 そんなことを考え始めるの今日この頃だ。


「はぁ~あ、テストもあるし。とりあえず今は勉強だな」


 教室に戻って来た俺は、ノートを開いてテスト範囲の確認を始めた。

 赤点を取ったら井宮とイベントに行けなくなってしまう。

 それはなんとしても避けたいし、井宮も頑張っている。


「あぁ~テストだぁ~どうしようぉ~!!」


「八代、お前授業中寝てばっかりだからテスト間際で焦るんだぞ」


「仕方ないだろ! 部活のために体力温存してんだから!」


「お前は何をしに学校に来てんだよ……」


「あぁぁぁぁくそぉ! 前橋!」


「ん?」


 俺がノートを確認していると、近くで話をしていた九条と八代が話をかけてきた。


「なんだよ」


「頼む! ノート見せてくれ!」


「八代、お前ノート取ってないのか?」


「そうなんだよ! 授業中は寝るのが忙しくて!」


「それ、忙しいとは言わねぇぞ?」


「悪いな前橋、こいつ中学の頃からこんなんだからよ」


「じゃぁ、お前がノート貸せよ九条」


「生憎、俺は今使ってるんだ」


「お前なぁ」


 うちのクラスの陽キャ代表の二人、九条と八代はそれぞれサッカー部と野球部に所属していて、一年生ながら二人共既にレギュラーだ。

 部活で忙しいのはわかるが、授業中寝ていた奴にノートを貸す気にはなれないな。


「悪いが他を当たれ、自業自得だ」


「そこをなんとか!」


「あのなぁ、他人を頼ってばっかりだとろくなことにならないぞ」


「それはわかってるんだが……夏休み補習なんかになったら、先輩になんて言われるか……」


「じゃぁ、ノートなしで真面目に勉強しろ、出題範囲は教えてやる」


「そこをなんとか! 頼む! なんでも言うこと聞くから!」


「ん? なんでもって言ったか?」


「あぁ! なんでもだ!」


 なんでもか……八代は顔もそこそこ良いし、スポーツ万能だ。

 クラスの女子からも人気があるし、噂だと野球部のマネージャーと良い感じらしい。

 高ノ宮とお試しとはいえ付き合うことになったので、付き合うということがどういうことなのか知りたかったのだが、これは好都合だ。

 しかも今なら文句なしのイケメン、九条もセットでついてくる。

 このチャンスをものにしない手はない。


「わかった見せてやる」


「本当か!」


「ただし! ちょっと相談に乗ってくれ」


「相談?」


「珍しいな、前橋が相談なんて」


「いや、ちょっとな……」


 俺はあくまでこれは自分の知り合いの話だと前置きをして、高ノ宮のことを二人に話した。


「なるほど、ずっと好きで諦めきれなくて、お試しの彼女を提案してきたと」


「あぁ、それでその場合どういう風に付き合うのが正しいんだ?」


「一番は早めにお前に興味はないと言って、そのお試しを今すぐ終わりにすることだな」


 最初に口を開いたのは九条だった。

 クールな口調で淡々と俺にその理由を説明してくる。


「その知り合いはその子と付き合う気が無いんだろ? だったら、いくら相手からの申し出でも失礼だ」


「確かにそうだな」


「いや、でもよぉ、本人がそうしてくれって言ってるなら良いんじゃね? 一週間くらいチャンスをやっても」


「八代、少しはその子の気持ちを考えろ、一週間必死に好かれようと努力して、結局振られるんだぞ? そんなの可哀想だろ」

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