第190話 最低な答え
*
そんなこんないろいろなことがありながらも、俺は卒業を迎えることになった。
気が付くと俺は高ノ宮や英司と一緒に居るのが当たり前になっていた。
俺と英司は同じ学校への進学が決まった。
「先輩、卒業おめでとうございます」
「あぁ、サンキュ」
「はぁ~あ、先輩弄って遊ぶのもこれで最後かぁ~」
「お前、俺を何だと思ってるわけ?」
卒業式の日、俺は高ノ宮といつものように体育館裏で話をしていた。
本当は真っすぐ家に帰りたかったのだが、帰る途中で高ノ宮に捕まってしまったのだ。
最後の最後まで一体なんなんだか。
「それで、何か用か? 俺は早く帰りたいんだけど?」
「ま、まぁ……その……そこまで対して用じゃないんですけど……あの……」
「なんだよ、ハッキリ言えよ」
「じゃ、じゃぁ……その先輩の第二ボタンもらえませんか?」
「え?」
なんでそんなものが欲しいんだ?
別に何も意味なんてないだろうに?
まぁ、次の学校は制服変わるし、上げても良いが。
なんで第二ボタン?
「ボタンが欲しいなら、予備のボタンをやるが?」
「あぁー、ですよねー、やっぱり先輩は知らないですよねー」
「はぁ?」
なんか知らないが、馬鹿にされた気分だった。
なんだこいつ、せかっく俺が親切で新しいのをやろうとしたのに!
決めた!
こいつにはボタンはやらん!
「いらないなら良いじゃないですか!」
「だから新品やるって!」
「なんでわかってくれないんですか! 私は先輩の第二ボタンが良いんです!」
「意味が分からねぇよ……ってバカコラ! 何無理矢理取ろうとしてんだ!」
「良いじゃないですか! どうせもう着ないでしょ?」
「お前、ボタンくらい自分で買えよ!」
「だから、そう言う事じゃないんですって!」
高ノ宮は俺のボタンをはずそうと手を出してきた。
俺はそんな高ノ宮の手を振りほどきながら説得を試みるが、全く聞こうとしない。
なんで第二ボタンにそこまで固執するんだ?
全然わからない。
「もう、なんで先輩は気が付いてくれないんですか!」
「だから何がだよ!」
「私が先輩を好きだってことにですよ!!」
「え?」
「あ……」
質問の答えは思いがけない言葉だった。
どうせまたからかっているだけだろう、そう思ったのだが、真っ赤な顔で涙を浮かべる高ノ宮を見て、そんなことを言えなくなってしまった。
「え、いや……あの……お前」
「好きです……」
「え?」
「先輩が好きなんです」
大粒の涙を流しながら、高ノ宮は俺にそう言った。
その瞬間、高ノ宮が掴んでいた俺の第二ボタンは取れてた。
それと同時に俺は姉貴から昔聞いた話を思い出していた。
卒業式の日に好きな人から制服の第二ボタンをもらえると、その人と付き合えるものだ。
でも、この学校では第二ボタンを女子から要求された場合、それは告白と同じ意味になると……。
「お、お前……なんで俺なんかを……」
「……なんでって、一緒に居て楽しいからですよ。馬鹿じゃないですか……」
「いや、俺なんて顔も悪いし」
「容姿なんて関係ありません」
「せ、性格捻くれてるし……」
「そんな先輩ともう一年以上も一緒に居ます」
「お、俺はボッチだし……」
「そんなの関係ありません……私は先輩が大好きです」
涙を浮かべながら笑顔を見せる高ノ宮。
そんな彼女の笑顔がまぶしくて。
そんな彼女のことを考えると、何て返事をすれば良いかわからなくて。
俺はこの子と付き合ってこの子に何かしてあげられるのかを考えて。
何も出来ないと悟った。
だから俺は最低なことを彼女にして、彼女から忘れられようとした。
俺のことをすっぱり諦めて新しい恋に生きて欲しかったから。
もっといい男を見つけて欲しかったから。
だから、俺はその場から逃げ出した。
高ノ宮に連絡先も告げないまま。
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