第185話 思い出は美化されがち

「悪いが今は彼女とかそういうのは……」


「そうやってまた逃げるんですか?」


「いや、そういうわけでは……」


「先輩のそう言うところ、あんまり良くないですよ」


 そんなの言われなくてもわかってる。

 きっとこいつは振るなら振るでハッキリしてほしいんだろうな。

 でも俺はそれが出来ない。

 理由は簡単、怖いからだ。

 こいつを振ったとき、俺はこいつを悲しませた。

 だから、もうあんな思いをしたくないんだ。

 でも、それが良くないことはわかってる。

 いや、多分俺はわかっていない。

 ただ俺は自分が傷つきたくないから、こんなことを言ってるんだろうな。


「知ってるよ」


「そうですか」


 そう言いながら、高ノ宮は俺に抱き着いてくる。


「先輩、私はそんな先輩でも受け入れますよ」


「………」


「あの時から、私は先輩が大好きですから」





 中学生というものになって1年が経過した。

 俺はクラスで孤立し、常に一人だった。

 しかも、長いぼさぼさ髪のせいで顔がほとんど隠れているせいか、俺はクラスの奴らに陰でこう呼ばれている。


「あ、マリモが来たぞ!」


「相変わらず暗いよなぁ~」


「気持ちわりぃ~」


 俺に話しかけるやつなんて誰もいない。

 だが、それでいい。

 俺も他人に関わるなんてこりごりだ。

 群れを作らないと何もできない奴らなんかと関わってもろくなことがない。

 

「おい、マリモ! 何か面白いことしろよ!」


「あ?」


 不良の真似事をして、俺をいじめようとしてくる奴もいたが、そう言うやつには。


「ひぃぃぃぃ! ご、ごめんなさい!!」


「うるさい、邪魔すんな」


 顔面を殴ってやったら泣いて謝ってきて、その出来事以降、俺に話しすら掛けてこなくなった。

 しかも殴ったのが教室だったのが悪かった。

 俺は完全にヤバイ奴として認識されてしまい、更にクラスで孤立した。

 そんなある日、俺が二年生になった夏のことだった。


「あ、あの帰りたいんですけど……」


「ねぇねぇ良いじゃん!」


「部活なんてさぼって、俺らと遊ぼうよ~」


 昇降口に不良生徒と一人の女子生徒が居た。

 帰るのに邪魔だったので、俺はその間を通り抜けようと声をかけた。


「邪魔」


「あ? なんだて……あ! やばっ!!」


「わ、悪い!」


 俺がそう言うと不良達はその場から逃げて行った。

 俺がヤバイ奴だということは既に学校中に広まっていた。

 残された女子生徒は何が起こったのかわからにような表情で俺を見ていた。


「アンタも行けば」


 そう言い残して帰ろうとする俺をその子は引き留めた。


「ありがとうございます!」


「え? あ、あぁ……」


 笑顔でそう言う女子生徒。

 中学に入って他の生徒にお礼を言われたのは初めてだった。

 しかし、俺は知ってる。

 どうせこの子も俺を裏切る。

 トラブルを持ち込む。

 だから、俺はそのまま帰ろうとした。

 しかし、その子はそれを許さなかった。


「あの! 何かお礼がしたいんですけど!」


「いや、いい」


「え? 即答!?」


「うるさい、離せ」


「うわぁ~見た目通りのくらーい性格ですねぇ~」


 なんだ、この失礼な奴……。

 見たとところ、一年生みたいだけど。

 というか、なんでこの子は俺を離さないんだ?


「帰りたいから離せ」


「まぁまぁ、少しくらいいいじゃないですか~」


 なんなんだこいつ?

 正直面倒だし、無理矢理でも腕を振りほどいて帰るか?

 なんてことを考えていると、彼女は俺の正面に立ち笑顔で自己紹介を始めた。

 キレイな金髪に赤い瞳、小柄でスタイルの良い彼女を見て思った第一印象は美少女だった。


「私は高ノ宮ユマリです! 先輩の名前は?」


 これが、俺と高ノ宮の出会いだった。

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