第164話 流石にこの状況はヤバイ

 こうして、何とか女子と男子の溝を埋め、打ち上げは問題なく進んでいたし、なんだかんだ皆楽しそうだった。

 まぁ、俺は既にへとへとだけど……早く終んねぇかな?

 

「おい! 男子でまだ歌って無い奴いるか?」


「そう言えば前橋がまだだぞ」


「おう、そうだなじゃぁ次は前橋曲入れろよ!」


「え? あぁ……いや、俺はいいや」


「え? 何でだよ?」


「主催者だろ? 歌えよ」


「悪いが歌は苦手なんだよ」


 っち、大勢でカラオケなら自分は歌わずに済むと思ったのだが、そうもいかないか。

 言った通り、俺は歌が苦手だ。

 まぁ、俗に言う音痴だ。

 ボッチでゲーマーで音痴なんてそんなどこにでも居そうな陰キャなのだ。

 だがこれはチャンスだ。

 

「俺も歌ってねぇけど、神影もまだだぞ」


「え!? い、いや僕は」


「あ、そうなのか?」


「じゃぁ歌えよ」


「デンモク置いておくぞ」


 よし、計画通りだ。

 これを切っ掛けに神影がクラスの奴らと仲良くなれれば、万々歳だ。

 それに俺が神影にカラオケを進めるのには理由がある。

 それは神影の歌唱力だ。

 今年あった音楽の授業、一年生は最初に学校の校歌を覚えるのだが、何度かあった授業で俺はずっと、教室の中に歌の上手い奴が二人居るなと思っていた。

 一人が英司であることは分かっていた。

 しかし、もう一人がどうしても分からなかった。

 だが、皆の歌を先ほどから聞いていて確信した。

 恐らく英司と並ぶ歌唱力を持っているのは……。


「神影君、歌うまーい!」


「ヤバッ! 私聞きいっちゃった!」


「笹原に続き神影までこんなに歌が上手いなんて!」


「知らなかったぜ」


 やっぱりだ。

 ボッチ生活が長く、学校の間暇で人間観察をしていたかいがあった。

 これで神影もクラスに馴染めるだろう。


「神影め……女子にモテる特技を……」


「くそっ! 俺たちには何もないのに!」


「末代まで呪ってやる」


 ……大丈夫だろうか?

 まぁ、でも……こいつらならなんだかんだで受け入れてくれるところがあるからな。

 女関連の嫉妬はヤバイけど。

 心無しか神影も楽しそうだ。


「ふーん」


「な、なんだよ井宮」


「別に……アンタ、出会った頃よりも随分変わったわね」


「俺が? 何の事だよ」


 井宮が俺の隣に来てそんな事を話始める。

 そんなに俺は変わっただろうか?

 別にそんなつもりはないのだが。


「いい意味でアンタは変わった来てるわよ」


「そうか? ま、あんまり実感はねぇけど」


「今でもアンタ、一人が楽なんて思ってるの?」


「あぁ、当たり前だろ?」


「じゃぁ、なんで一人で居ようとした神影君を助けるような真似をしたのよ」


「………お前は知らねぇだろうけど、馴染みたくても馴染めねぇ奴が居るんだよ」


 まぁ、俺は自分の考えを変える気はねぇけど。

 色々面倒だし。


「やっぱり変わったわよ、アンタは」


「そうかよ、それよりあんまり俺の近くに来るな、男子から殺される」


「他に空いてるとこがないのよ我慢して」


 ヤバイ、殺される……。

 い、いやでも井宮とは教室でも良く話をするし、もうあいつらも俺が井宮と居るのは見慣れているから何も感じないのでは?


「くそっ! 前橋の野郎!」


「結局井宮さんを独り占めしやがって!」


「末代まで呪ってやる!」


「前橋君……なんで僕じゃないんだい?」


 ヤバイ、やっぱり殺されそうだ。

 てか、なんか別な意味での危機感も感じるんだけど……。

 ま、まぁ今なら男子と女子が仲良くしているし、俺が井宮と仲良くしていてもそこまで嫉妬を買うことは……。


「け、圭司君、隣良いかな?」


 隣に高城がやってきた。

 訂正、両手に華は流石にヤバイ。

 なんか男子の視線が血走って来たぞ。

 待て待て、俺はお前たちのために打ち上げなんて面倒なイベントを企画したんだぞ!

 感謝されても恨まれる覚えはないぞ!



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