第161話 やっぱり帰りたい

「まったく、時間通りに行動しない奴が多すぎる……」


 待ち合わせの時間になり、やって来たのはクラスの8割り程。

 とりあえず来ている連中には勝手に始めててくれって言ったし、気長に待つか。

 しかし、九条や八代はともかく、井宮や高城まで遅刻なんて珍しいな。

 あとは……神影か。

 まぁ、誘ったけどあいつは来ないかもな……一歩を踏み出すのがどれだけ大変か、俺にも分かる。


「いやぁ~悪い悪い! 部活無いからゆっくり寝てられると思ってよぉ~」


「たく、迎えに行ってやった俺まで遅れたじゃねぇか」


 遅れ組で最初にやって来たのは九条と八代だった。

 この二人は仲が良く、基本的に二人でワンセットだからどっちかが遅れたらもう一人も遅れると思っていたけど。

 まぁ、5分くらいの遅刻だし良いか。


「部屋は15号室だ早く行け」


「わかった、15号室だな」


「おい待て九条」


「なんだ?」


「なんだその釘バットは?」


「あぁ、ちょっとクラスの男子生徒半数ぐらい半殺しにしてやろうと思って」


「あぁ……」


 そういえば九条って、俺がつかまる前にクラスの奴らから洲巻にされてたんだっけ。

 

「待て待て、流石に店の店員もそれは許してくれないだろ? 凶器だし。しかもなんでサッカー部なのに釘バット?」


「あ、俺がお前にあげた木製バットじゃん」


「あぁ、凶器になる前は普通に使われてたのね」


「悪いな前橋、俺はあの馬鹿共に仕返しするために今日来たんだよ」


 まぁ、気持ちは分かるが、俺が主催した会で流血沙汰ってのは気分が悪い。

 ここは何とか九条を納得させないとな。


「九条、やるならバレないよう一人ずつ呼び出して店の裏でやれ、丁度防犯カメラからは死角だ」


「なるほど、確かにその方がリスクは無いな。よし、このバットも店の裏に置いてこよう」


「いや、俺のバットを凶器に使うなよ」


 よし、なんとか説得することに成功した。

 恐らく打ち上げが終る頃には男子の数は半数以下になっているかもしれないが、まぁ良いだろう。

 

「さて、後の三人は……」


 なんて事を呟いていると井宮と高城がやって来た。

 全く、こいつら何をしてたんだ?


「遅いぞお前ら」


「ごめんごめん、ちょっと昨日イベントの周回してて」


「お前あの後もやってたのかよ……高城は?」


「わ、私はちょっと朝が弱くて」


「あぁ、そう言えば昔からそうだったな。まぁ、いいや、もう皆来てるから15号室な」


「分かったわ」


「ごめんね」


 そう言って二人も部屋に入っていった。

 残るは神影だけだが……一応連絡をしたが返事が無い。

 もしかしたら、本当に来ないかもな。

 

「……俺も入っちまうか」


 そんな事を思った時だった。

 カラオケ店の扉が開き、神影がやって来た。


「ご、ごめん遅れて……」


「大丈夫だ、まだ5分くらいしか経ってない。お前で最後だ、一緒に行こうぜ」


「う、うん……」


 俺は神影にそう言い、クラスメイトが集まっているであろう15号室にやって来た。

 扉の前にやってくると神影は立ち止まってしまった。


「や、やっぱり……」


「ここまで来てそれはねぇだろ、ほら行くぞ。今日は打ち上げなんだし、みんな楽しく……」


 そう言ってドアを開けた瞬間、部屋の中から何かが飛んできた。

 どうやら注文していた料理を食べるためのフォークらしい。

 しかしなぜ?


「てめぇ! この間は良くもやってくれたな!」


「や、やべぇ九条がキレた!」


「お前が悪いんだろ! 女とイチャつきやがって!」


「だからあれはそう言うのじゃねぇって言ってんだろ!!」


 部屋の中を覗くと先ほど説得出来たと思っていた九条が男子生徒に仕返しをしている真最中だった。

 対する女子はというと、そんな事はお構いなしにカラオケを楽しんでいた。


「僕、やっぱり帰る」


「俺も帰りてぇよ……」


 やっぱりこのクラスには打ち解けない方が良いのかもしれない。


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