第160話 一人は楽だが結構暇

 神影深、身長は俺よりも低く細身だ。

 あまりクラスで話をしている様子を見た事が無いし、今回の文化祭でも目だった恰好はしていない。

 うちのクラスの野蛮な男子の中には珍しい大人しいやつだが……。


「なぁ、明日の打ち上げ来ないのか? お前意外全員参加だぞ?」


「え? そ、そんな事を聞きに来たの?」


「そんな事って……皆で稼いだ金でやるわけだし、一人だけ居ないとなんか気持ち割りいだろ?」


「べ、別に僕なんか居なくても影響ないよ……僕影薄いし」


「なんだ? 来たくないのか?」


「……どうせ僕が居ても居なくても気が付かないし」


「………」


 気が付かないか……。

 昔はそれが羨ましと思った。

 誰にも認知されず、誰とも関わらなければどれほど楽に生きられるだろうかと。

 だが、この世界はでは誰かと関わらないと生きていけない。

 だから、人は好む好まないに関わらず人と接する。

 その結果自分が傷ついてもだ。

 だが、影が薄かったり、存在が薄かったりする人間は得だと思っていた。

 必要以上に人から関わられなくて済むからだ。

 もし、神影がそれで良いなら俺は何も言う気はない。

 だが……。


「お前、クラスにまだ馴染めてないのか?」


「………か、関係ないだろ……」


「まぁ、そうだけど」


 俺とこいつはもしかしたら逆の立場なのかもしれない。

 俺は正直クラスなんてものに馴染まなくても良かった。

 ただ学校で授業を受け、卒業さえ出来ればそれで良いと思っていた。

 ま、今じゃもうクラスに関わりまくってるわけだけど……。

 もし、こいつが俺とは逆でクラスに馴染みたいんだとしたら……。


「いい機会なんじゃねぇの? あの馬鹿共と仲良くなるには」


「き、君みたいな人気者には分からないさ……普通に友達を作るのも難しい人間もいるんだ」


「まぁそうだよなぁ……」


「え?」


「正直面倒だよなぁ~友達の顔色伺ったり、飯を奢らされたり、クラスメイトから山に埋められろうになったり……」


「い、いや、そこまで大変では無いような……」


「でも、一人って飽きるんだよな」


「え……」


 一人は飽きる。

 それを俺は一番良く知っている。

 まぁでも人間はそんな状況に慣れてしまう。

 しかし、一人に慣れてしまったらこの世界では生きていけない。

 俺は最近そう思うようになっていた。


「来てみないか?」


「で、でも……」


「無理にとは言わねぇよ。でもよぉ……」


 一人は………結構寂しいしな。


「一歩踏み出す勇気って大切だと思うぜ」


 俺もあいつのおかげで踏み出せたしな。

 てか、俺はなんでこんな柄にも無いことを言ってるんだ?

 高校に入って少しおかしくなっちまったのかな?



 打ち上げ当日。

 なんで休日に俺がカラオケ店のエントランスでクラスメイトを待たなくてはいけないんだか……。

 

「おはよう! 前橋君!」


「幹事ご苦労様~」


「部屋ってもう決まってるの?」


「おう、15号室の大部屋だ、もう何人か来てるからさっさと行ってくれ」


「そっか、ありがと!」


「でも、前橋君て雰囲気変わったね」


「そうか?」


「そうだよ~」


「前は声掛け難かったけど、今はなんか接しやすいっていうか」


「いつもはなんかクラスの事に口ださないけど、いざってなったら行動してくれて頼りになるし!」


「目の保養にもなるしねぇ~」


「何を言ってんだか……」


 俺はスマホを弄りながら、クラスメイトの女子三人の話を聞き流す。

 というのも、コッチは勝手にクラスのSNSグループに強制的に加入され、来るのが遅れると連絡が来た奴らに返信している真最中だからだ。


「九条と八代も遅れんのか……こりゃ時間には全員集まらねぇな。お前らさっさと部屋入ってろ、なんだったら先に歌っててくれ」


「マジ? りょーかーい」


「ねぇ、ドリンクって飲み放題?」


「アイスもあるじゃん!」


「安心しろ、アイスもドリンクも食べ放題飲み放題だ。さっさと行け」


「「「はーい」」」


 やっと行ったか。

 これであと半分か……井宮と高城もまだだし、男子は結構集まってるけど女子は遅いな。


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