第149話 文化祭編38



 僕の家は優秀な家計だった。

 父さんは企業の社長、母さんも結婚前は大企業の幹部だった。

 兄さんは頭も良くてスポーツも出来、おまけに色々な人から慕われる完璧人間で僕はただの凡人だった。

 だから、努力した。

 努力して兄さんみたいになりたかったから。

 でも、結局僕は凡人だった。

 勉強はどうにかなっても、スポーツや人気は別だ。

 努力ではどうにもならない場合もある。

 だから、結果を求め続けた。

 父さんと母さんもそれを望んでいた。

 だから、よく言われた。


「もっと頑張って」


「結果が全てよ」


 父さんと母さんは兄ばかりを見ていた。

 だから、父さんや母さんが僕を見てくれるように努力した。

 結果が良いと父さんも母さんも僕を見てくれた。

 だから、僕は高校でも結果を出し続け無ければならなかった。

 だから、強者に挑み続けた。

 どんな事でも僕は勝ち続け結果を出さなければいけなかった。

 でも、そんな僕が負けた相手が前橋圭司だった。

 彼に勝てれば僕はもう一段階上にいけると思った。

 だから、クラスでの出し物勝負と一騎打ちを申し出た。

 しかし、さっきのミスコンで俺は実力の差を見せつけられた気がした。

 彼が出て行った時のあの歓声、僕ではどう頑張ってもあの歓声を聞くことは出来ない。

 カリスマ性とルックスの差を見せつけられた。

 しかも、母さんの前でだ。

 母さんの前でもう敗北なんてしたく無かった。

 でも、あの状況では誰でも僕が負けだと分かる。

 だから、一気にやる気が無くなってしまった。

 でも、彼は僕にこう言った。


『知るかって言ってんだよ、お前の事情なんて。自分から仕掛けた勝負も最後まで全力を出さねぇで終わらせる中途半端な奴の気持ちなんてなぁ』


 中途半端……確かにその通りかもしれない。

 でも、実力の差をこうも見せつけられれば誰だってこうなる。

 まぁ、出店での勝負はうちが結構な差をつけているから勝てると思う。

 本命の勝負が負けた時点で僕のやる気はもう無かった。


「もう二日目の昼過ぎ、ここから巻き返すなんて無理だ、出店の売り上げはうちが買ってるし」


 そう思っていた。

 まぁ、今となってはその勝負もどうでも良いのだが。 

 この出店勝負で勝っても意味がない。 

 これはあくまでクラス同士の勝負だ。


「巻き返すなんてどうせ……」


 僕はそんな事を呟きながら、前橋君の教室を覗きに行った。



 俺はミスコンの結果も聞かずに急いで教室に戻った。

 

「おい英司!」


「ん? 前橋どうした? まだシフトじゃねぇーだろ? てか、めっちゃ決まってるなぁ……」


「ちょっとな、どうだ? 売り上げは?」


「まぁ、結構良いけど……やっぱり三組には勝てねぇよ。噂によるとすげー怖いらしいし」


「そうか、ならこっから逆転する」


「はぁ? どうやってだよ?」


 もう最終日のお昼過ぎ、このままでは時間が過ぎるのをただ待つだけだ。

 だけど、うちのクラスにはとっておきのサービスがある。


「俺も今から入る! 今からは写真撮影の単価を下げるぞ!」


「はぁ!? そんな事をしたら売り上げ下がるだろ!」


「だから、セットで飲み物とかお菓子を注文して貰うんだよ! セット価格だ! 注文した人は写真撮影半額! ドリンクはテイクアウトもOKにする! 確かこぼれないようにドリンクはコップに蓋とストローつけてたよな?」


「なるほど、そうすれば回転率も上がるか……うちのドリンクは他の店よりも量は若干少ないが安いからな」


「そうだ、もうすぐミスコンも終る。そしたら、ミス千膳になった二人が営業に入って更に注目度も増す!」


「いや、まだあの二人がなるって決まったわけじゃ……」


「どうせなんだろ、あいつら以上に顔の良い女子を俺は知らん」


 俺はそう言いながら裏で着替えをし、接客に入る。


「なんだよ、急にやる気だして」


「ちょっとな……負けたくなくなったんだよ」


 俺はそう言いながら、接客を始めた。

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